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猿の惑星/キングダムのnowstickのレビュー・感想・評価

猿の惑星/キングダム(2024年製作の映画)
3.8
本作の感想を書く前に、猿の惑星シリーズとは何なのか?について書いていきたい。
猿の惑星シリーズは、原作者であるピエールブール氏が第二次世界大戦中に日本軍の捕虜になった経験を元にして作られたと言われている。自分達よりも劣っていると思われていた日本人という「猿」、に支配されるという経験は、氏にとって衝撃だったらしく、他にも日本軍が運営する捕虜収容所での生活を描いた「戦場にかける橋」といった作品も発表している。
猿の惑星は映画だと1968年公開の第1作が最も有名だが、ラストのどんでん返しに重点を置いたストーリー展開と、エンタメ作品としては少し邪魔な哲学的なテーマが災いし、シリーズ化には長らく失敗してきた。しかし、2011年から始まったリブート版の3部作は「現代の地球が、猿の惑星になるまでの前日談を描く」という手法を取ったことで、哲学的なテーマを保存しつつも、そのシリーズ化に成功した。特に2017年公開の完結作の「聖戦期」は、「戦場にかける橋」「大脱走」「地獄の黙示録」といった戦争映画へのオマージュも見られ、ブロックバスター映画としては信じられないぐらい重厚な映画に仕上がっていた。
こうして一旦は完結したリブート版であったが、2019年にディズニーが、猿の惑星の映画化権を持つ20世紀フォックス社を買収したことで事態が一変する。知的財産権をフランチャイズ化して生計を立てているディズニー社が、猿の惑星の映画化権を放っておく訳が無かった。こうして映画メイズランナーシリーズの監督を務めたウェスボール監督による、新シリーズが始動したのだろう。

さて、ようやく本作の感想について書いていく。
IMAXレーザーGTの日本一デカいスクリーンで鑑賞した自分も悪いのかもしれないが、本作がシネスコ比で作られていたせいで、画面全体の半分ぐらいしか映像が写っておらず、シネスコ映画をブラウン管テレビで見た時みたいに、臨場感に欠けていた。
そもそも自分はシネスコ比があまり好きではないのだろう。画面が横に長すぎるせいで全体の構図も取りづらいだろうし、小津安二郎が「郵便ポストの中から外の景色を見た時みたいで、ゾッとしない」と言っていたのがよく理解できた。
「アラビアのロレンス」みたいに、開けた荒野のシーンを撮るならまだしも、冒頭の木登りのシーンとかは、なるべく縦長のアスペクト比で見た方が迫力があると思う。そういう点では、映画後半の人間の使ってた基地の廃墟とかが出てくるシーンは、建物の床と天井で上下の視界が遮られてる分、シネスコ比でも見やすかったと思う。

ストーリーについては、前半部分を見た時は「哲学的なテーマを捨てて、エンタメ路線に振り切ったのかな?」と思ったが、後半は猿の惑星シリーズの伝統に則り、哲学路線に進んで行ったので安心した。これもまた1作目のオマージュでもあるのだろうが、ラストに衝撃のピークを持ってきたせいで、映画中盤は少しダレてしまった気はするが、全体としては十分楽しめた。
物語全体の設定も、これまでの猿の惑星シリーズが意図的に避けてきたであろう、「何故、猿の文明は発展しなかったのか?」といった問いにも触れていて、新シリーズをやる上で、今までには無かったテーマ選びが出来ていて、良いと思った。

おそらく本作は今後シリーズ化されるだろうが、問題は「この設定を何処まで活かしきれて、伏線を上手く回収できるか?」という点である。設定を飛ばしくって観客を惹きつけた結果、その設定を上手く使いきれなかったり、伏線を回収できずに終わり、シリーズ全体としては微妙な評価となってしまった作品は、山ほどある。スターウォーズの新3部作、マトリックス3部作、本作の監督が以前に作ったメイズランナー3部作もそれに該当すると思う。また、連載開始時の衝撃と、連載中の評価が最も重要で、「どう完結させるか?」が二の次になってしまいがちな、日本の漫画にも、よくありがちな傾向だ。
猿の惑星リブート版の前3部作が完璧に設定を使い切り、完璧に完結させれただけに、どうしてもそこが気になってしまう。正直、今の段階では作り手側も、大して結末を考えてない気もするが、前3部作も2作目以降は作り手が一新されたにも関わらず、世界観を損なわずに完璧に作られていたことから、本シリーズもここから完璧に展開される可能性もあるだろう。

肩透かしは喰らいたくないが、ある程度は今後の展開に期待したいと思う。
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