柏エシディシ

あしたの少女の柏エシディシのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
3.0
実際にあった労働搾取による自殺を題材にした映画と聞き、なかなか覚悟が決まらないまま上映最終日に滑り込み。
結論、観て良かったし、観なければならなかった。
どこもかしこもインセンティブ、インセンティブ。
当然日本も他人事でないどころか、より酷いのではないだろかと憶えのある構造的な搾取と、それを是とする社会の泥沼感。
弱者や若者が喰いものにされる時代。
ストーリーラインがある程度判った上で鑑賞した訳だが、観客の多くのそういった姿勢をを受けて尚、時系列を並べ直したりする様な安直なサスペンス的作劇に逃げることなく、あえて丁寧に事態の顛末を重ねていく監督チョン・ジュリ。
「私の少女」の際も繊細な演出の手腕が独特な嫋やかさと誠実さを感じさせたものだが、本作はそこに秘めたる怒りと義憤が込めつつ、より凄みを増していた。
よい意味でも時に悪い意味でもケレンに振り切る事の多い韓国映画群の中では特異な才能の監督だと再確認した。
その前作から継続してタッグを組むペ・ドゥナが本格的に登場する後半が、本作のこれまた白眉で、ソヒの足取りをたどる道程が観客の想いを汲み取る受け皿の様な役割を静かに力強く演じている。
行方を曖昧にした終幕は、もちろん、監督をはじめ製作陣の我われ観客へのメッセージであろう。
Next Soheeを生み出さないために、私たちの出来ることがある筈だ。
柏エシディシ

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