Jun潤

カンフースタントマン 龍虎武師のJun潤のレビュー・感想・評価

4.0
2023.01.09

ポスターを見て気になった作品。
事前情報をほぼ入れず、『スタント』というタイトルに惹かれて鑑賞。
昨年『狼 ラストスタントマン』を観れず終いになってしまったので、その分も合わせてアクション成分補給です。

かつて「東洋のハリウッド」と称されるほどの隆盛を誇った香港映画界。
武術を学んだスタントマンや指導者、ブルース・リーらスターの存在によって、世界的評価を受けるほどのコンテンツとなっていたが、その道は決して順風満帆なものではなかった。
ブルース・リーの死、香港映画界の衰退、次世代スターの育成など、いくつもの壁に躓き、今もその壁に阻まれていた。
最盛期の香港映画界を支えた監督、武術指導、俳優の口から語られる、アクション映画制作の裏側と情熱。

いやー、これは大満足!
香港映画に疎くても、アクションシーンだけでももう手に汗握りますし、撮影の裏側がどうなっていたのか、危険な撮影に対して現場の方々は何を思っていたのか、そして、再び衰退の道を辿ろうとしている香港映画界のために、彼らは何をしているのかが語られていました。
これは香港映画界だけでなく邦画界、引いては社会全体や人生における指針ともなり得る作品。

ドキュメンタリーであることすら知りませんでしたが、壮大な物語が始まりそうなOPクレジットはアガりますね。
本物の武術を源流とする香港アクションの歴史と偉業など、フィクションの世界ではない、実際に現実で行われていたアクションだからこそ、ブチ上がらない訳にはいきませんね。

日本の主に特撮などのアクションを見るのも好きですが、その裏側もなかなか明らかになりませんね。
昭和ライダーの頃などは危険な撮影をしていた話を聞きますし、今はCG処理によってだいぶ安全になってきたとも聞きます。
しかしアクションスーツを着て視界や可動域が制限された状況でのアクションという、今作を見て香港映画界に匹敵、とまでは言えなくても、腰あたりまではありそうな情熱や技術があるのかなと、想像が膨らんで楽しかったです。

まだ20代後半で、昔の作品もあまり観ないのですが、今こうして新しい作品に触れ続けられるのも、先人達が成してきた偉業の数々、そしていつの時代も存在する、より良い作品作りに対する情熱や恐ろしいまでのこだわりや実力、カリスマ性を備えた圧倒的なスターの存在があったからでしょうね。
そして過去の栄光に縋り続けるのではなく、後世に残していくべく次世代のスターを育成することにも余念がない。

作中でスタントマンの鍛錬を積んでいた女性の口から語られたように、鍛錬をしても撮影に参加できるとも限らない、出演できてもやられ役で終わってしまうかもしれない、命懸けの撮影で生命の危機に瀕するかもしれない。
それでも夢を追って鍛錬を続けられるのは、かつて見た夢をもう一度見て叶えて、その大小に関わらず人生の財産としていくため。
これは大多数の人の胸に刺さるんじゃないかと思います。

今作から転じて、邦画界の最盛期ってどこなのだろう?
僕が知らないだけかもしれませんが、まだ来てない、もしかしてもう来ない?
黒澤明や宮崎駿など、世界に誇れる監督はいても、邦画界全体が世界的に盛り上がるというのは耳に入って来ませんね。
そもそも国としての映画産業に対する支援の違いなのかもしれませんが、僕個人的には邦画界もそう捨てたものではなく、むしろ世界に出しても恥ずかしくない作品も少なくないと思っています。
しかし作中でも言及されていたように、作品の評価は観客が決めるもの。
少数が騒いでも大きな変化は訪れないのかもしれませんが、それはそれで寂しいので、濱口竜介監督や『ドライブ・マイ・カー』の邦画史上初アカデミー賞作品賞ノミネートなどを皮切りに、世界に誇れる邦画界を僕が生きているうちに見たいものですね。

(知識不足の稚拙なレビューで申し訳が立ちません……。)
Jun潤

Jun潤