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ナイン・マンスのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ナイン・マンス(1976年製作の映画)
3.7
【しつこい男に寄り添った途端...】
昨今、マニアックな映画のリバイバル上映が盛んに行われている。2023年上半期はオタール・イオセリアーニ特集が話題となったが、もう一つ注目の特集がある。それはメーサーロシュ・マールタ特集である。ベルリン国際映画祭やカンヌ国際映画祭での受賞歴がありながらこれまで日本ではほとんど紹介されていなかった監督メーサーロシュ・マールタ。昨年、MUBIで特集が組まれ界隈で注目されていたが、日本にも上陸することとなった。2023/5/26より新宿シネマカリテ他にて始まるこの特集に先駆けて、今回ライトフィルムさんのご厚意で一足早く彼女の作品を観ました。今回は、カンヌ国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞した『ナイン・マンス』を観ていく。

メーサーロシュ・マールタの作品では工場がよく登場する。これは彼女が社会主義国からのクリエーター育成を行なっていたモスクワ国立映画学院(VGIK)で映画の勉強をしていた影響だと思われる。彼女は両親と共にカザフスタンに移住していたが、ハンガリーとナチスが同盟を組んだことで、父は殺害。母親は失踪の末、死亡した。ハンガリーに戻ってきたものの、女性が映画を撮ることは難しく、モスクワに渡って映画の勉強をし、ドキュメンタリー映画制作を経て、劇映画を作るようになった。

本作では、全体主義の中の個人主義を男性と女性との温度差踏まえて描いた作品である。巨大な工場を舞台に絵画的構図で女性を捉えていく。物語は、上司ヤーノシュ(ヤン・ノヴィツキ)がしつこく「付き合おう、好きだ」とユリ(リリ・モノリ)に迫るところから始まっていく。彼女は乗り気ではない上に、元パートナーとの間に子どもがいる。なので、最初は彼のことを鬱陶しく思い跳ね除けていくのだが、段々と親密な関係となっていく。そして時が来る。彼女は真実を話すのだが、すると彼は狡猾に立ち回ろうとする。会社からの目も厳しくなり、ユリは窮地へと立たされていく。

狭い廊下にて大勢の眼差しをユリに注がせる一方で、ヤーノシュは全然心理的ダメージを負っていない様子から男女に向けられる社会からの眼差しの差異を炙り出していく。『アダプション/ある母と娘の記録』に引き続き、男性のクズな自由さを暴き出す作品であった。

2023/5/26より新宿シネマカリテ他にて公開。
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