エディ・ブロックとヴェノムとのドタバタ珍道中完結編。サム・ライミ版『スパイダーマン3』のヴィランから切り離される形で復活した今作のスタートになった『ヴェノム』は、ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)の記念すべき通し番号1番だった。スパイダーマンが生きている世界線とはまた違う世界は隣接しているが、交わることはない。バイク好きのフリー・ジャーナリストだったエディ(トム・ハーディ)はとある財団による違法な人体実験の闇を暴いたことで仕事も恋人も失い、路頭に迷う。だがそんな彼を宿主として、ヴェノムはエディの身体に棲みつく。それから幾度も幾度もエディとヴィランは寂しい夜を乗り越えて来た。然し乍らマリガン刑事の殺人罪で一躍、指名手配になったエディは故郷のサンフランシスコには帰れない。自由の女神を見るために。メキシコからニューヨークへのロード・ムービーの幕が開く。
今作は自由を求めたエディとヴェノムの最後の旅に他ならない。暗黒神ヌルはヴェノムだけが有する「コーデックス」という鍵を手に入れようと、ゼノファージという最強の追っ手を放つ。どれだけ八つ裂きにしようが、切り刻もうが元の形にくっ付いてしまう最強の敵は、テレパシーとスカウターを持ってヴェノムに迫るのだ。街角の防犯カメラに写っているにも関わらず、まったく迫って来ないFBIが心底ザルで、今回はエリア51の秘密基地に潜む博士とゼノファージとの三つ巴の戦いが始まる。ここにはもはやかつての最愛の人アン(ミシェル・ウィリアムズ)は出て来ない。ラスベガスで偶然あの人に出会い、刑事との再会もある。今作において何より重要なのは、エリア51にエイリアンを見に来たあるヒッピー一家との出会いである。エイリアンに憧れを抱く夢想家とエイリアンみたいな存在に身体を乗っ取られた主人公との対比。IやHEではなく、さながら『WE』(俺たち)となったエディの苦悩が伝わるが、ヴェノムは冗談めかして意に介さない。
『ターミネーター2』のようなスカウターによる追いかけっこがあり、『エイリアン』のようなグロテスクなクリーチャーとのアクションもある。相変わらず脚本自体は緩いが、どうやら黒幕はこの世界線に留まるらしい。MCUとSSUとは全く別の世界線ということは公式にアナウンスされているが、私はどうも完全に切り離すことが出来ない。モービウスに続き、「次は俺」という掛け声と共に今年中には更なるヴィランのクレイヴンも現れる。スパイダーマン及びSSUの未来から目が離せない。