SPNminaco

イヌとイタリア人、お断り!/犬とイタリア人お断りのSPNminacoのレビュー・感想・評価

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手を通して現在と過去、家族と歴史、手仕事と労働、実写とストップモーション・アニメーションを繋ぐ。
同じ顔をベースにした登場人物たちの大きな手は、捏ね、縫い、切り分け、掘り、摘み、積み、担ぎ、書き、弾き、殺し…文字通りの働き手、稼ぎ手として酷使される。その手から僅かな希望を奪うのも、国やカトリック教会の権力という大きな手だ。
あちこち翻弄されながら家族や尊厳、故郷を失う足もまた印象的だった。イタリアからフランスへ亡命した一家とツール・ド・フランス、アルプスの峠を何度も越える長く過酷な旅路が交差する。賑やかなキャラバンカーに先導され、目にも留まらぬ速さで過ぎて行く自転車選手(あの体感速度!)。どんなに漕いでも呆気なく終わってしまう人生。
だが、手は憶えている。記憶を紡いで伝える映画の作り手は、祖母が語る一家の物語に手を差し伸べる。小さな人形と、段ボールや野菜で様々に見立てた舞台セットをこしらえて動かす手。帽子や靴、じゃがいもやニョッキまで、一つ一つに触れた人の手が確かな存在を残す。
祖母の視点であることが、多くを語り過ぎない省略と余白になっていて、淡々とした中に恐怖や怒り、やるせなさが尚更伝わってくる。祖母は結婚で既に故郷を離れざるを得なかった訳で…。
苦難に満ちた一家族のサーガは、悲しいかな、時代や場所が違っても世界のどこかで続いてること。ツール・ド・フランスを観るたび思い出しそう。
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