くりふ

イヌとイタリア人、お断り!/犬とイタリア人お断りのくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【歴史のやさしい刻み方】

アマプラにて。2023年のTAAFで長編グランプリを受賞したフランス製パペットアニメ。

監督の私的な振り返り。要は、究極の“うちの祖父母自慢”。しかし、家族を史実の中に置き相対化させることで、誰もが頷ける物語に高めている。歴史を学べることに始まり、豊かさの詰まった映画ですね。

アラン・ウゲット監督はイタリア系フランス人。祖父母の代は国が貧しく皆、他国へ出稼ぎに行った。祖父母は最後にフランスへ移住するが、その間に2度の戦争を挟み紆余曲折し、暮らしは楽ではなかった。本作の厳しいタイトルは本当に、そういう告知が外国の街角で、当たり前に貼られていたそうです。

しかし過ぎた過去を今、深刻ぶっても意味がない。ウソを覚えちゃいけないが、厳しい史実をユーモアに包んだ方が、より心に刻まれるはず。本作は、そんな志で貫かれた良作だと思います。

等身大の監督が、パペットで再現したイマジナリー・グランマと対話しながら、過去へと旅してゆく。このメタな構造に、文字通り監督の“手触り”が加わって、とても温かく綴られてゆくのです。

手作りの感覚に満ちた歴史の捉え直しは老若男女、誰にでも沁みやすいでしょう。残酷な痛みだって糖衣錠のように、するりと心に刻まれる。フィクションの力を借りて、歴史が生きた思い出に変わってゆく。

素材が私的なぶん、沁み方に限界もある一方、スイスとイタリアを結ぶ大工事、シンプロン鉄道トンネルの史実など、こんな映画でなければなかなか、知ることもないでしょう。

イタリアの村で挟まれる魔女のエピソードも興味深いし、司祭がやっぱり、根が冷酷というのもキリスト教らしくて苦笑してしまう。残酷も無常も無情も、柔らかなパペットアニメの力でするりと呑みやすい。

そしてラスト、移民3世代目の監督が、本作を通じて受け継いだものは何か?

やっぱり、本作の要は“手触り”で、そこはメタ・パペットアニメだからこそ辿り着けた場所でしょう。

正直、物語としての満足度は低いのですが、狭い物語の枠には閉じ込めなかった、今だからこその映画の料理法に、つくづく感心したのでした。

<2024.4.13記>
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