AkihiroTakeishi

啄む嘴のAkihiroTakeishiのネタバレレビュー・内容・結末

啄む嘴(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

啄む嘴 感想

女は車に乗り込む。
逃避のない安息を求めて。

女は車を走らせる。
平凡からの逃避を試みて。

人間は大人になるにつれ
何も見えない
暗闇そのものよりも、
暗闇の中にいる何かしらの
虚像に怯えるようになる。

そんなファーストカットに始まり、本作の第一声が男の
「この辺で犬、見ませんでしたか?」
長いタメの先に発されるその唯一の人間っぽさがより、こちらと作品を暗闇で距離を取ってくる。

個人的にはこの時間の不気味さが
女性2人の登場よりも遥かに渡邉安悟らしい。
それゆえに、ドライバーの女の方の日常世界が記号的であることに一瞬、興味がないのかと思ってしまうが、きっとそうではない。彼女にとっては日常を取り囲むものが背景なのだろう。

だからこそ
背景ではなく、
交点となり、
背景ではない主人公が混ざってきた時とその距離感が最後まで掴めない…
幾何学的な作品全体の骨子に飲まれている。
だとするなら、それで徹底されるべきものを「シンデレラ」の一連のコミュニケーションが一旦崩す。
あの時間、あの一連のみなら
まだしもその後の燃えてる家の見える見えないのコミュニケーションがあまりにも急に距離が縮んでいたのが少しバランスを崩してしまって見える。
そして、鳥のキーホルダーによってまた幾何学の世界に戻っていく。これは好きでした。

スゴイ不思議なことに
これだけ長い夜が続くと
そこに惹かれていくのですが、
こんなに嬉しい夜明けはないと思いました。
夜の方がかっこいいはずなのに、今回は陽が登ってホッとするというかまだ何も解決していないのにハッとトンネルの出口が見えたようなそんな気持ちでした。

終幕のカタルシス。
僕の勝手な解釈ですが
現実からの浮遊を求めたドライバーの女はより、理性の世界観ではしない手に出る。
退治というよりも、相手が引くほどの理解不能さを垣間見させたんだ思いました。

一年後のエピローグは
青山真治監督 「helpless」のラストをふんわり思い出しました。

これがファーストカットを上段の暗闇の中の何かと捉えると
それに対する人間の視点のアンサーで終わるんだなと。
AkihiroTakeishi

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