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バック・ビートのJのレビュー・感想・評価

バック・ビート(1993年製作の映画)
4.8
・物語★★★★★
・配役★★★★★
・演出★★★★
・映像★★★★★
・音楽★★★★★

"5guys 4legends 3lovers 2friends 1band "

本作のキャッチフレーズに込められたひとつひとつの意味を考えるとき、そのどれもが輝きと切なさに満ちていて、この映画を初めて鑑賞したときの感動が呼び起こされる。

ロックバンドを題材にした数ある映画の中でも、実話をベースにしながらもこれほどまでに切なく観る者の心に突き刺さる作品は、他にないだろう。
しかもその実話とは、ビートルズのデビュー前夜に脱退し、そして急逝した"幻のメンバー"S・サトクリフの生涯。

ジョンとポールを中心としたメンバーそれぞれの思いが交錯する中で、ロック以上に断ち切れないアートへの思い、そして恋人アストリッドへの想いに葛藤する姿を、S・ドーフが巧みに演じている。

ビートルズでの成功を捨ててまで選んだアストリッドとの人生。
しかし、それさえも手にすることは許されない悲痛な運命。
死の間際の痛々しいほどに切ない姿は、バンドの成功とはあまりに対照的で、観る者の心を強く締め付ける。

余談だが、ドーフが本作で見せた、観る者の心を掴んで離さない演技からすれば、後に大作「タイタニック」のジャック役のオファーが彼に対してなされたという話にも頷ける。
(結局、実現しなかったのは、ドーフがこのオファーを蹴ったことによるそうだ…。モッタイネ…)

実在の本人とよく似た俳優のキャスティング然り、有名なマッシュルームカットの逸話に代表される緻密な事実考証に基づくシーンが多い点も、本作が評価されるポイントのひとつのようだ。
ただ個人的には、実話の知識があまり多くない方が、映画としての世界観にはのめり込めると思う。
単なる再現ドラマの域にとどまることなく、これほどまでに情緒を揺さぶるヒューマンドラマとして成立しているのは、まさに人物の内面をえぐる秀逸な演出がなせる業だろう。

抑えめのトーンながらどこかオシャレな映像は、さすがイギリス映画らしい。
ビートルズに特別深い思い入れがあるわけではないが、やはり音楽も◎。

何度でも観たい傑作中の傑作。

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