モッチモチねずみ

ゴジラ-1.0のモッチモチねずみのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます


違う。そうじゃない。

4DX迫真のフルプライス3000円は伊達じゃない。
噛みつかれては飛んでいく兵隊、ゼロ距離からの戦艦の砲撃、空を駆け巡る戦闘機のエンジン音、凝ったおもちゃのギミックみたいな背ビレからの都市壊滅熱光線。

そうそう、そういうのでいいんだよ。
そういうのが観たかったんだよ。

朝の連続テレビ小説と怪獣映画の食い合わせだって決して悪くない。

絶望の大戸島から始まり、生き残ってしまった主人公の葛藤、命がけの仕事を通して苦楽を分かつ同僚たち、ひとときの癒しとなるヒロインと幼子の疑似家庭環境、
夢か現か混濁するほどの鮮明なトラウマもようやく霞み、全てが順調に思えた。

そこで待ってましたとばかりに繰り広げられる虐殺にも等しい銀座襲撃、塵と化す国会議事堂、流れるようなヒロインの死、神木隆之介の迫真の絶叫と無常に降り注ぐ黒い雨。

苦しくも美しいドラマティックな展開。これには私も思わずニッコリ。
評価も最高点待ったなし。

いや、待ったがかかった。

結局生きたいのかい、死にたいのかい、どっちなんだいが、いまいち伝わらない主人公。
絶対に誰も死なせない宣言のせいでマジで誰も死ぬ気配がなくなり緊張感の消えたゴジラ討伐現場。
敷島家に届く電報から漂う嫌な気配からの取ってつけたようなヒロインの生存報告。
ヒューマンドラマと怪獣映画の組み合わせが悪くないとは言ったが、そこまでしろとは言ってない。

違う。そうじゃないんだ。

もっと血で血を濯ぐ地獄の首都総力戦とか、
生き残った者が負わされる重責とそれでも立ち向かう姿とか、
戦中戦後特有のぞんざいな命の扱いと意地汚く抗う生命力みたいのが観たいんだよ。

そうでなければ群として命を繋ぐ人間と個で完成されたゴジラの戦いである必然性が感じられない。
銀座襲撃までは文句のつけようがなかっただけに以降の落差に正直がっかりしてしまった。

決して悪い作品ではない。
だが諸手で誉めそやす作品ではないこともご承知いただきたい。

余談だが、
整備士の橘さんが意味深に座席を見つめるシーンを挟み、隆之介に爆弾の安全装置をレクチャーするシーンがあるが、
「なるほど、実はこれが脱出装置になっていて、奇しくも死のうと覚悟を決めた隆之介が助かる流れだな。橘さん粋だな」
と大真面目に思っていたものだから、ふつうに脱出装置の説明はするし、隆之介は「やっぱり生きたい」とかぬかすしで私が死にたかった。