「日本人が見た悪夢」
初代ゴジラの公開は昭和29年。この時期、戦後の荒廃からようやく復興の兆しが見えてきたとはいえ、B29による空襲と原爆の恐怖は日本人の心の奥深くに刻まれたままであった。
又、同年に起きた第五福竜丸の被曝事件は広島長崎の惨劇を生々しく蘇らせた。
初代ゴジラ映画では水爆実験で巨大化したゴジラが(再び)東京を蹂躙する。当時の日本人にとって、まるで悪夢の続きを見ているやうな気持ちになったのではないだろうか。
ゴジラと同世代の私が初めてこの映画を観たのは小学生の時であったが、それがリバイバル上映だったかTVであったのかはもう記憶が定かではない。
今振り返れば特撮やストーリー展開は粗雑であったが、恐怖感というか、あがらうことができない強烈な暴力に対する絶望感を持ったことは覚えている。
今回の鑑賞では小学生の子供と一緒に見たが、冒頭の恐竜サイズのゴジラの登場で彼は座席から逃げ出してしまった。そのまま母親に付き添われて、いつでも逃げ出せるように通路でスタンバイして最後まで鑑賞した。
彼にとってゴジラはそれほどリアルな体験だったようだ。
すでに老年になってしまった私としても、これまで見てきた多くのゴジラ映画の中でゴジラ-1,0は特別な体験となった。
願わくば現に理不尽な暴力にさらされているウクライナ、イスラエル、パレスチナのの人々に、希望ある終結が早く訪れることを。