べるーし

ゴジラ-1.0のべるーしのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
2.4
待望の東宝ゴジラ最新作!!なのだが色々許し難い出来だった。

よく言われる人間ドラマ演出はハッキリ言って素人でもやらない程レベルが低く、無駄に感傷的で尚且つ、ゴジラのオリジンまで描写するくらい説明的なのが鼻に付く。…までは、まぁ山崎貴だしと目を瞑れるとして、太平洋戦争を題材にかつPTSDを扱った反戦要素を肝にしている割には、軍人を英雄として描くわ昭和に対する解像度があまりに低く浅いのがもう兎に角腹立たしく、自分としてはゴジラのゴの字も拝むどころじゃなかった。如何にも戦後生まれが思い浮かべる、情に熱いだけの昭和日本な描写は何よりダメ。あの時代はそんな生優しいものではなかったと戦後すぐは幼児ながら叛骨精神を持っていた祖父から痛い程聞いた身としては尚更そう感じる。

今作が多大なオマージュやリスペクトを捧げたのが明白な初代『ゴジラ』自体が、反核だけでなく戦後すぐの「戦争の責任は日本にある」思想に基づく映画だったのを忘れてはならない。じゃなかったら米軍のお下がりで発足された保安隊(現自衛隊)が大活躍する戦意発揚映画を思い起こす内容になっていたと思う。が、今作はあろうことか上述の様に軍人(厳密には退役軍人だが)はカッコいいものとして描いており、特攻への批判をしてようが反戦映画としては大失敗しているようなもので、意図の滑りようとこの危なっかしさに頭がクラクラする。
最近昭和レトロが炎上していたが、こういう戦争に対する解像度の浅ましい映画に比べればZ世代による懐古への憧憬など可愛いものに過ぎない。何故ならこれを撮ったのが昭和生まれのオッサンだからだ。可愛いワケない。

本作の主人公はランボーを思い出す戦争のPTSDを抱えていて、そうした人間は戦争(=ゴジラ)へのトラウマ故に暴力や戦闘にしがみつかざるを得ないのだが、それを美しいかの様に描くのも疑問。反戦映画なら戦争で狂った人間を美化して語る勿れ。

日本政府の旧態依然を批判するセリフも多々あるから完全にそうではない、という意見もあるだろうが、なら何故あんなやんわりとしか批判しない?叛骨精神を持つなら徹底的に持ってやれよと、日和った脚本にもうんざりする。深作欣二と笠原和夫ならこうならず、『県警対組織暴力』の抗争シーンの様にバッサリぶった斬っていたに違いない。
ドラマも人間側は心底うんざりするくらい浅い造形で凡庸で、誰一人として印象に残らない。そのクセ状況や感情は観りゃ分かるのに口に出す為、操り人形の様な印象を受けてならなかった。
怪獣映画は怪獣の様な狂気を孕んだ人間がいてこそ怪獣たらしめるのに、今作にはそれがなくて怪獣映画としても面白くない。

戦後の人間には到底見えない役者の演技のチグハグさ、熱量や血気迫るものがない表情付けにしろ、幾らゴジラの破壊シーンのCGが優れていようが結局邦画が一番旧態依然で変わらない。この現状が情けない。
ぶっちゃけオスカーノミネートすら胡散臭く感じて、余計にこの作品への不満が溜まる。

ストーリー性のチグハグさもそうだが、『シン・ゴジラ』にあった、世相を踏まえた上で今やるべきは何か?というシリーズとしての前進した何かすら薄くて、やってる事も全体的には初期東宝特撮のまま過ぎて作る意義も感じないので、正直東宝ゴジラは20年以上作られない方がいい。
べるーし

べるーし