ささきたかひろ

ゴジラ-1.0のささきたかひろのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.6
脚本、設定、演技、演出。モヤモヤするところを挙げればキリがないのだが、鑑賞後には「ゴジラが来ちゃったらしょうがないよねぇ」と、多くの疑問が満足感に変わっていた。

映像の力に圧倒された形だ。アカデミー視覚効果賞受賞は伊達ではない。

ゴジラ誕生のエピソードは他の作品と比べてあっさりしている。定番の「核実験により誕生した生物」のくだりもあったが、「ゴジラが来ちゃったんだから、そんなこと重要じゃないでしょ!」と、米軍がゴジラ退治に介入できない前提をストーリー上必要に迫られて提示した程度で、ゴジラが核兵器によって生み出されたという印象は薄かった。

しかし、この取捨選択は物語中盤からの展開のスピーディさと、ゴジラという存在のミステリアスさを増幅させていたように思う。「未知なる生物なんだから情報が集まるには時間がかかる」という展開はリアリティがあった。

アカデミー賞を受賞した特殊効果(CG)もおそらく想像以上に使われているが、「CGっぽさ」に違和感を感じた瞬間はほとんどなかった。この作品の力の入れどころがまさに特殊効果にあったのだと改めて感じる。

私自身がライトなミリタリー好きでもあるので、精巧に再現された旧日本軍の戦艦や戦車、戦闘機の登場には胸が高鳴った。それくらい存在感と重厚感があった。

先の大戦を「恥ずかしながら生きながらえた」者たちによる「命を大切にする闘い」の割には、主人公敷島の「トラウマ」がストーリーの要となっていた(生き残った特攻隊員だった過去を清算するためにゴジラに神風アタックする行動は作戦そのものを瓦解させかねない)など、バランスの悪さはあった。しかし、それら全ては「素晴らしい映像体験」によって昇華された。

死闘の後、息絶えたゴジラへ捧げた敬礼は、ゴジラを戦争の犠牲となった御霊の象徴と捉えていたようにも思う。お国のために犠牲となった御霊が、戦後を謳歌する敗戦国民達へ「復讐する」そんな救いようのない裏設定すら潜んでいそうな「荘厳」な雰囲気を纏い、「生き残るための闘い」は幕を閉じる。

ドラマ部分のベッタベタな展開やご都合主義も、ハリウッド戦略のためと言われれば納得がいく。しかしながら「恐怖」という突如降って沸いた不可抗力に抗う人間のドラマとしてはスケールが小さいことは否めなかったのは惜しいところだが、前作「シン・ゴジラ」のように「未知に遭遇しながらもルーティーンに囚われる滑稽な人間模様」もあれば、本作のような「ひたすら恐怖に蹂躙される人間の姿」もありだと思えた。

つまるところ「ゴジラ」はその誕生から70年を経てなお最上級のコンテンツとして世界に君臨している事実。これが全てではないでしょうか。

次の「ゴジラ」が待ち遠しいですね。
ささきたかひろ

ささきたかひろ