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怪物のdendohのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

本当は初日に観たかったのに生憎の台風で断念。二日目も朝一番は雨が強くて家を出るのを逡巡してたが、何とか午前最後の回で観てきた。

是枝裕和×坂元裕二という時点で鑑賞することを決めていたため、カンヌで脚本賞とったとか、演者が誰かという以外、全く事前リサーチしてなかったのが功を奏した!

ストーリーは(安っぽく思われるかもしれないが、誤解を恐れずに例えれば)『ひぐらしのなく頃に』の如く出題編x2→回答編の三編構成である。三編はそれぞれ主役が異なり、母親→教師→子供達という順。同じ出来事であっても、それぞれの視点で観ると異なった解釈となる。これは『ひぐらし』に限らず、ノベルゲームであれば比較的手垢がついている手法(映画で言えば羅生門スタイルというらしいが、不勉強でこの単語を知らなかった)...とか言いつつ、題材や演出、音楽(坂本龍一の遺作🙏)、ロケ地選定(やっぱり諏訪は最高!)含めて神がかってるので、1作品としてスキがなく、本当に何も文句ない出来となっている。

なお作中では『結局火事の原因は何だったの?』『本当に夜遊びしてたの?』等の語られない要素があり、神の視点たる鑑賞者すらメタ的解釈が分かれるはず。これもわたし好み。

■1パート目
母親(安藤サクラ)主役。息子(湊)のいじめを疑うが、それに対する学校の糞対応に翻弄される。次パートの教師(瑛太)の描写を考えると、教師のまともとも思えない言動は母親の主観によるところが大きい気がする。
彼女は良い母親であるが、『結婚して幸せな家庭を作る』事を善としている為、それにより息子を苦しめる事となる。

■2パート目
担任教師(瑛太)が主役。良き教師だが、不慮の事故で湊に怪我を負わせる。母親のクレームに対して真摯に説明しようとしたが、学校組織の方針でそれも叶わずに大事となり、職も彼女も失う可愛そうな人。
しかし彼の言動に問題がなかったわけではなく、口癖のように唱えていた『男らしく』等の言動が湊達を苦しめる事となる。

■3パート目
子供達が主役。
イジメられていたか衣里は性自認も女性(或いは無性)寄りらしく、学校ではイジメられている。家ではDVまで行くか分からないが、ネグレクトに近い事はされているように思えた。湊は衣里に対して同性愛感情を抱いているが、家族や教師やクラスメートの影響から、素直になれないどころかイジメを傍観していたものの、最終的には両思いになる。
台風の夜、ビッグクランチと来世に期待する二人は、放置されている鉄道車両で崖崩れに巻き込まれる。

全体では決して『LGBTQ映画』ではないと言いつつ、三編目は『性的少数者が主題』といって良いと思った。『子供の性的少数者』に限って言えば、題材としてはとても珍しいと感じた。『鉄道』『少年二人』『死の予感』という組み合わせからは『銀河鉄道の夜』を彷彿させられる。
最後の子供達の行動は実質的には心中であり、『二人はじつは死んでいて、ラストシーンは来世での光景』という解釈も取れた。

彼らに救いがあったかどうかは、現実の私達に委ねられている、そんな気がする! 『クールジャパン』とか言いながら、LGBTQに対する差別心剥き出しのアホな保守系政治家達こそ観るべき映画。


(余談)
役者としての東京03・角田の近年のバイプレイヤーぶりにはド肝を抜かれるが、個人的には、ゴッドタン繋がりで元AKB48・野間玲奈が女性バイプレイヤーとして活躍しつつあるのが地味に嬉しかったりする。今回は1パート目ぐらいしか目立った出番がなかったのが残念。
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