柊

怪物の柊のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.8
視点が変わると物事の現れ方が変わると言う事なのはわかるけど、それでも2人の男の子の本質には誰がたどり着けたんだろうか?

少なくとも中村獅童は息子の本質を知ってはいた。でもそれを受け入れることはできてないし、今後も変わる事はなさそうだ。
それに引き換え,安藤サクラ演じるシングルマザーは多分不倫の果てに死んだ夫の一面だけを心に留めて今を生きている。だから息子に対して一生懸命ではあってもそこに見出す未来は普通の家庭を築く事。それが息子の重荷になりつつある事には全く気付いていない…がその息子だってまだ自分の嗜好及び思考に確信を持っている年齢とは言い難い。でも星川君との出会いが彼を一歩前進させてはいる。安藤サクラが嵐の夜に息子を探すがその結末は観た人に丸投げ。是枝監督お得意の手法ながら今回は投げ過ぎかな。

いろんなものを最初から投げかけているけれど回収しきれていない部分も多いような気がする。
例えば、最初の火事、チャッカマンを持った星川君は校長と接触しているけれど、それはあまり関係なさそう。でもチャッカマンは結構重要な小物。この場合出会うのは校長ではなくほり先生だったら?とか思ってしまう。

またほり先生,決して優秀で熱心な先生ではないし、恋人の先入観に影響されすぎていて、教師としては問題は多い。がしかし暴力をふるった訳ではないのに他の教員に止められて心の無い対応をするが,それにしてもあの対応は酷すぎる。飴舐めるシーンもとても考えられない。これでは逆にモンスター保護者を作る要因のひとつとも思える。だから葛藤があったとしてもあまりにも人格が違いすぎてとても視点を変えて1人の人間を表現したようには思えない。
そして星川君の作文で何を知り得たのか?それがはっきりしないのでとてもモヤモヤする。誤植を見つける事を趣味にしている底意地の悪い教員が急に何に目覚めたのか?こちらには上手く伝わってはこなかった。
もう少しほり先生と安藤サクラお母さんが共通の視点を持てるような展開であれば、最後のシーンも生きたように思う。

私の中では,音楽室で校長先生とトロンボーンとホルンを吹いていたシーンがまだ不確かで不安定な湊君が自分の行いが何故だったのか?を考えるきっかけになったようでいいシーンだったと思う。やっぱり田中裕子恐るべし。もしかしたら校長先生が一番2人の本質に近づいていたかもしれないなぁ。なんて思ってしまった。

いろいろ考えると、最後のシーン光がいっぱいで何の屈託もなく走り抜けて、幸せが満ちているシーン。現実に戻れば転校する星川君とは離れ離れ。そしてまた誰もわかってくれない現実が待っている。だから最後は2人で旅だったのかな?と思ってしまう。そして大人達は永遠に真実には辿り着かない。

やっぱり星川君の作文気になるなぁ。
柊