hikaru

怪物のhikaruのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

凄まじい映画でした。
映画公開情報解禁日から毎日楽しみで、公開初日に仕事を休んで観に行った本作。そんな過度な期待を悠々と超えてくる大傑作でした。

最初は、是枝監督と坂元さんの作品のファンとして、安藤サクラ×瑛太とか、安藤サクラ×田中裕子とか、是枝裕和監督×脚本家坂元裕二だからこそ観ることが出来るキャスティングにMCUでアベンジャーズが揃った時のような感動を覚えていましたが、物語が進むにつれてそういった高揚感が良い意味で溶けるように消えていき、物語に没入していきました。

生きた登場人物たち。折り重なっていくテーマ。言葉では語らず映像で語っていく映画らしさ。どこを切り取っても美しく儚く愛おしい。大好きな映画になりました。

物語の中身について。

前半の安藤サクラと瑛太がメインのパート。
登場人物それぞれの思惑と真実がことごとく異なっている様子は、内田けんじ監督の「運命じゃない人」を思い出しました。徐々に明らかになっていく真実に対して、伏線回収という言葉を安易に使いたくなくなるような思い違いの数々。そう思わせるのは、本当に日常にあるような細やかでリアリティのある悲しい思い違いを描いているからだと思いました。

坂元さんが、恐らく『それでも、生きてゆく』について語った時のインタビューにて、「被害者を被害者として書かない。加害者を加害者として書かないことを意識している」と語っていた言葉。瑛太に対する安藤サクラの思い違いが明らかになっていく時にこの言葉を思い出しました。
誰かにとっての極悪人は、誰かにとっての愛する人だったり、最低な行動は、不器用さの表出だったりするのだという事を改めて思わされました。とにかく人を自分から見える一面だけで見ない。人の事を分かった気にならないということが大事なのだと教えられます。
個人的には、瑛太の演技に魂が震えました。丁度10年前、『最高の離婚』で瑛太が演じた光生を観て、神経質で不器用な彼に「この人は未来の自分なのか?」と子供ながらに思わされてドラマに夢中になった日々。あれから10年。いざ自分が大人になってみると、人前で光生のように思った事を口にする事は出来ません。辛く悲しい思いをしても、大きな力に丸め込まれて受け入れる事しか出来なくなっていく。心と行動が乖離し始めて、笑顔がどんどん下手になっていく。10年越しに永山瑛太という俳優を通して自分の合わせ鏡を観ているようで、胸が辛くなりました。日々の辛さを晴らしてくれる唯一の拠り所だった恋人からも見限られてしまうシーンは来ると分かっていても辛かった。

そして後半の子ども達がメインとなるパート。
ここが本当に素晴らしかった。
普通の映画だったら、前半の大人のパートだけでも十分満足感が得られる深みに達しているにも関わらず、さらにその先を描けるんだと物語の推進力の強さに驚嘆しました。
中でも、このパートでテーマになってくる同性愛。
時代とともに、これがメインとなる映画は近年多くなっている印象を受けます。その多くに個人的には不誠実さを感じていました。物語として葛藤を生みやすいテーマであり時代を考えているように見せつけられる。そのように同性愛を「利用する」作品が多いなと感じる所が多い中、ここまで誠実に、切実にこのテーマを扱っていることに感動しました。この誠実な脚本を演じきった子役の2人。2人の俳優としての凄さはもちろんの事、彼らを演出したであろう是枝監督はやはり子役を演出する事において天才的だと感じました。本当にみんな、登場人物が映画の世界に生きていました。


人の事は分からない。分からないけれど、例えば前よりも少しだけ人と仲良くなれたとか、少しだけ人と分かり合えたとか、天気が良かったとかそんな些細な事を大事にしたいなと思うようになりました。

こういう映画の作り手が日本にいる事が心から誇らしいです。
また是枝さんと坂元さんの作品を見返したいな。
hikaru

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