青いビニール袋

怪物の青いビニール袋のネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

51本目 ネタバレあり

シングルマザーの早織は、1人息子の湊が担任の保利先生から暴力を受けたと思い、
学校に乗り込んで抗議をしに行くが、学校の対応に納得いかない
やがてその騒動はメディアまで巻き込む大騒動となるのだが・・・

カンヌ国際映画祭で脚本賞とある賞(これは伏せた方が絶対楽しめる)を受賞
邦画だと5年ぶりの是枝裕和監督最新作は、初めて脚本を他人に任せた作品
その脚本家はなんと坂元裕二!
「もしも脚本家と組むなら誰か」という質問に坂元裕二と答えてきた監督の夢が叶う
映画・テレビと舞台は違えど、社会的な作品を作ってきた2人の共作
音楽は今年亡くなられた坂本龍一 合掌

真っ暗な空洞が夜になると浮かび上がるような湖畔の地方都市で、
ビル火災が発生したシーンから物語が始まる
本編通して出てくるのはこの小さな火種がやがて大きな事象に変わっていくことで、
特徴的な3章構造に関してはこの小さな火種が重要であり、
鑑賞後に、後ろにいた奥様方が言っていた
「これはシックスセンスばりにネタバレ厳禁だ」というのに納得
まさにそうなんですけど

安藤サクラが表面の真実を求めていく最初のパートは、
怪物女優の本領発揮とも言える1人舞台
ひたすらキレ散らかすのではなく、時々不機嫌になりながらも口調は比較的丁寧な感じがリアルで、
学校という名の怪物を責め立てていくと同時に、
後のパートに必要な様々な設定を散りばめていく
個人的には亡くなった父親がラガーマンだと説明しなくても分かる
仏壇での誕生日シーンはすごい良かった
正直テンプレ気味ではあるけどラガーマンという選択も嫌いじゃない

2章目の物語を追いかける先生側(および学校側)パート
保利先生の噂の真相などのいわゆる答え合わせのパートなんだけど、
坂元裕二らしい小ネタを挟みながら進んでいく
校長室の写真の置き方とか、後の校長の気持ちを考えても不謹慎だけど、
見ていてちょっと笑っちゃった
1章目に出てきた火種たちはなぜ拡散していったのかを見せつつ
その中でも無自覚な発言が3章目の橋渡しとなっていく

そして全ての核となる3章目は、
湊と依里の視点で物語が進んでいく
今まで出てきた怪物とはさらに違う怪物が2人を襲う
なぜ豚の脳という暴言が出てきたのか、
2人が喧嘩していた理由が明かされていく
嘘をついてまで湊が守りたかったものは何だったのか
いじめっ子の同級生が出てくるけど、
彼らは明らかにバラエティ番組における影響を受けており、
テレビドラマ出身の坂元裕二がその暴力性を描いているのは自己批判的なものを感じた
湊の隣に座っている女の子が呼んでいる本にも注目してほしい

劇中3度出てくるすごく下手な吹奏楽の音、
校長先生と湊の叫び声ということがわかるのだけど、
そこに至るまでの校長先生のセリフがまさにこの作品の本質であると思う
「幸せというのは選ばれた人のためにあるものではない、皆が手に入れられるから幸せなんだ」

是枝監督といえば、子役には脚本を渡さないことで有名ですが、
今回初めてメインの子役2人には脚本を渡したとのこと
自分なりに考えて役のアプローチをした黒川くんと柊木くんの演技は
きちっとはまっていたし、
逆にクラスメイトには渡さなかったとしている教室のシーンは、
まさに子供の無自覚な暴力性というのを表せていたと思う

久しぶりにまとまらない感想になってしまったけど、
海外での2作品を経て戻ってきた是枝監督作は
久しぶりに突き刺さり、早くも今年ベスト級映画が出てきた
ここまでとある言葉を使わず感想を書いてきたけど、
そのセンシティブな言葉を一切使わないのも良いところだったなあ