ぶみ

怪物のぶみのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.0
「怪物」探しの果てに、私たちは何を見るのか。

是枝裕和監督、坂元裕二脚本、坂本龍一音楽、安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太主演によるドラマ。
学校で起きた子ども同士の喧嘩において、当事者等の主張が異なる様を描く。
主人公となる小学五年の少年、麦野湊を黒川、星川依里を柊木、湊の母を安藤、湊、依里の担任教師、保利を永山が演じているほか、保利の恋人を高畑充希、小学校の校長を田中裕子、教頭を角田晃広、依里の父を中村獅童と、演技派が集結。
物語は、冒頭、市街地にあるビル火災のシーンでスタート、この時点で、邦画にありがちなCGやVFXのチープさが皆無であり、邦画もやればできるじゃないか、と思わせてくれる仕上がり。
以降、湊の母、担任教師、湊と依里それぞれの視点が時系列が入り混じりながら描かれていき、本当は何が起こっていたのかが徐々に明かされる様は、上質なサスペンスを観ているようで、その脚本の巧さには舌を巻く。
また、劇中で明確にその場所が語られることはなく、公式サイトでも「大きな湖のある郊外の町」としか触れられていないが、其処彼処に登場する地名から、ロケ地が長野県の諏訪湖周辺であることは明らかであり、とりわけ廃線跡として登場するJR中央本線の旧瀬沢隧道付近の雰囲気たるや、よくぞここまで素晴らしく、作品にピッタリの場所を見つけたなと思わせてくれるもの。
普段ことあるごとに「相手の立場になって」「人の気持ちに寄り添って」と言った言葉を耳にするが、相手の立場の気持ちなんて、その立場にならないと絶対にわからないものであるし、他人だろうが身内だろうが、寄り添われても何の力にもならないどころか、時にマイナスになることばかり。
と同様、一面だけを切り取って、「あの人はかわいそう」などと言う言葉や感情は、そう思うことで、自分が優位に立ちたいだけのことでしかない。
本作品では、親としての湊の母、社会人としての担任教師、そして私自身の少年時代と、立場や経験に応じた自分の心情を重ね合わせることができるものであり、前述のように、物事の本質を掴むなんて、所詮無理だと感じる反面、極力、多角的な視点で物事を見ることを、常に心のどこかに置いておくよう肝に銘じなければならない。
加えて、これから本作品を観る場合には、全てが伏線となっていることから、あらゆる台詞、登場人物の一挙手一投足を見逃すことがないよう注意したいところ。
諏訪湖の穏やかな水面を背景に、サスペンス、ジュブナイル、そして濃密なヒューマンドラマが絶妙な塩梅で融合されているとともに、全体的に漂う重苦しい空気感と、ラストの鮮やかな開放感との対比が強烈であり、心に、そして社会に潜む怪物の跋扈を誰しもが認知する必要がある良作。

誰でも手に入るものを幸せって言うの。
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