Walkerよしけー

怪物のWalkerよしけーのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

2ヶ月ぶりの映画鑑賞。そしてさらに久しぶりの行きつけの映画館。やっぱり、TOHOシネマズのいつものオープニング曲(大切なひと)は良い、沁みる。

しかし、開始前の予告映画が見事に全部邦画だけなのはなんだろう。。今回は邦画を観に来たわけだが、本来は洋画好きなので、寂しい限り。

では本題。
以下、ネタバレがあるのでご注意

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この映画を総括すると、今年前半に観た中ではベスト。

いろいろ思うことを以下に書いてみる。

まず、タイトルの「怪物」について
このネーミングは、当然、是枝監督が決めたんだと思うけど、観終わっての印象としては、ちょっとミスマッチかなという感じ。
観る前は、「怪物」と言うと、何かすごく怖い特定のものが描かれているのかな?というイメージを持っていたんだけど、実際に観てみると、そんなものは出て来ない。
安藤サクラ演じる母親がモンスター(日本語で怪物)・ペアレントとして描かれていると思うが、日本語で言う「怪物」とはちょっと違う気がする。日本語の「怪物」って、もっと強烈に怖いものをイメージしてしまうのは自分だけだろうか?

かと言って、この映画で描かれているのは、何というのか、世の中の一般的な価値観にそぐわない様々な重荷を背負ってしまった人間の悲しさと言うか、それをタイトルとして表すのは難しい。。

何を怪物とみなすかは、観る人の解釈に委ねるというスタンスなのだと思うが、実際のところ、監督は何のことを「怪物」だと言いたいのか?答え合わせなんか出来る訳ないのだけど、凄く重い宿題を課せられた気分になる。

この映画は、ビル火災のシーンから始まる同じ時間軸のドラマが、次の3つの目線で語られる。
①安藤サクラ演じる湊(みなと)の母親目線
②永山瑛太演じる小学校の教師目線
③黒川想矢演じる小学生、麦野湊(みなと)の目線

この内、①と②は伏線で、③でそれを回収するという流れだが、とにかく③が圧倒的に惹きつけられる。

①と②では、湊の嘘を発端として、母親がモンスターペアレントと化し、そして教師が退職に追い込まれる。でも、その時点では、湊が何故そのような行動を取るのか全く分からない。
そして③で、麦野湊(みなと)と星川くんの二人の関係性が描かれるに従って、湊の心の葛藤、不可解な行動の理由が見えてくるのである。

この映画は、日本社会の奥底に潜む社会問題、そしてそれによって否応なくモンスター化してしまう姿を露わにする事がテーマだと感じる。

例えばそれは、
・子供の表面的な行動・発言のみを盲信してモンスターペアレント化してしまう親の在り方。
・学校を守ることだけしか考えず、教師の暴力や生徒のいじめ問題に真摯に向き合おうとしない学校幹部。
・そして、LGBTに関して無知であるが故に、いじめという残酷な行動に出てしまう子供達。
・学歴や仕事、子供の性自認に関して世間体ばかりを気にする星川くんの父親
・LGBTであるが故に、親や同級生、そして最後には好意を寄せる湊にも遠ざけられる星川くんの鬱屈した心

映画の中では、明確に犯行シーンは出て来ないものの、散りばめられた伏線からすると、恐らくビル火災の原因は放火であり、その犯人は星川くんであることを示唆している。そして最後に星川くんは、自殺を図るまで追い詰められて行くのである。

星川くんは何故そこまで追い詰められたのか?どうしたらそれを回避出来たのか?
この映画は、観た人、一人一人にそう言った事を気付かせ、考える機会を与える事で、日本社会が少しでも良くなることを願った映画だと思う。

最後のシーン。
台風一過の晴れ間が出た野原に駆け出す湊と星川くん。
清々しく、明るい未来が見えるシーンであり、ほんとに感動する。

以上
Walkerよしけー

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