けいすぃー

怪物のけいすぃーのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

「怪物」は我々の頭の中にいる。いくつかの出来事の点を自分の偏見を通してもっともらしく並べ、架空の怪物を作り上げている。未知という人間の大きな恐怖を巧みに描いた映画だった。

非常に作り込まれた脚本、演出。言及したいことは山ほどあるが、あるていど絞って書き留めておく。
まず、三者の視点から同じ期間の物語を描いていく手法として、どのパートも過不足なく、絶妙なバランスを取っていた。あえて作られた違和感もちゃんとその理由が明らかにされていき、巧みな演出だと感じた。そして程よく残された謎も物語に余韻を作り、傍観者である我々がさらなる偏見を重ね、新たな「怪物」を作り上げる一抹の危うさを残していた。

しかしそれでも気になる謎もいくつかあった。一番は、なぜクラスの児童達はホリ先生を陥れたのか。ホリ先生が飛び降りるのを止めたのはなぜか。(目線の先にみなとと校長が見えた?明暗差で見えないのでは?)よりの作文の横読みに気付いたホリ先生はそれだけで「俺が間違っていた」と嵐のなか謝罪に行くのか。など。

印象に残ったシーンはまず、よりがみなとに引っ越すことを打ち明けるところ。2人の気持ちが交差する場所で、撮り方がこの上なく艶っぽくて素晴らしい。2人とも10代には見えなかった。
また、みなとと校長が音楽室にいるシーンも、一部・二部で小学校で金管楽器が鳴っていた違和感を上手く回収し、みなと、そして校長の声にならない叫びを表現していた。その音は新たな門出を予兆するようでもあった。
そして最後のシーンだ。それまで見事に積み重ねられた事件の真相、2人の少年の感情を昇華していた。雨の形跡や柵がなくなっていることでそれが現実ではないことは明らかだが、解釈の余地は残されている。

これはカンヌで脚本賞とるなという作品だった。
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