水

怪物の水のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
開始数分でビル火災の様子を背景にしたタイトルバックの映像になる。燃え盛る炎が無慈悲で、燃えてしまったというよりは燃えてしまえ!!みたいな怒りすら感じられて、そんな炎の中に「怪物」という文字があるものだから最初は“怪物”に対する怒りの映画なんじゃないかと邪推した。
でも全てを見終わったあと、あのタイトルバックは“怪物”たちの供養を意味していたのかもしれない、、と思った。

監督、脚本、役者、カメラ、編集、映画を構成する要素全てが観る者を欺こうとしていることは明らかで、それぞれの視点から過度に描かれる主観が映像化されることによってサスペンスが生まれていく。

「怪物 だーれだ」というこの言葉で、私たちは愚直にも一体誰が怪物なんだろう、本物の怪物とは…みたいなことを一度は考えちゃうような気がするけれど、でも多分そういうことじゃない。これは、自分自身が得体の知れぬ怪物になったかのように思えること、もしくははっきりとそう自覚してしまった瞬間の底無しに続いていく恐怖なんだと思う。怪物が怖いんじゃなくて怪物になってしまうことが、自分の中のその存在に気づいてしまうことが怖い。
脳のCTを撮る時の、湊のあの不安そうな表情。本当に本当に苦しかった。その感情に、なにも間違ったことなんてないんだよと声をかけたくなる。

校長と湊が楽器を吹いて、心を吐き出すシーンが大好きだ。あの音も大好きだ。

坂本裕二節は極限まで抑え込まれているけれど、本当たまにコンニチワ‼️と顔を出してくるような感じだった。猫もそう。

わたしはこの映画、かなり好きです。見たあとに外が大雨でびしょ濡れになれたのも良かった。
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