ぴんゆか

怪物のぴんゆかのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.8
暫定今期1番。

全員が一つ一つの事柄において加害者となりうり、また別の件の目撃者、ひいては共犯でもある。このグレーで持ちつ持たれつな構成がより一層物語にリアリティと深みをもたらしていると思う。
誰も悪くなくて、しかしながら全員が悪い。だからこそ世の中は難しくて本当は裁くことなんて出来ないことばかりなのではないのか。

男らしく、普通の家庭を持つ、普通の趣味を持つ、笑い方がストーカーみたいとか、他意はないであろう、誰かのスタンダードに合わせたような発言が結果的に誰かを生きづらいものにさせるマイクロアグレッションと化しているのも、現代を生きる、そして日本社会を生きる人間にナイフを向けてくる。


シーンとしては、怪物だーれだ!とみなとがトンネルで1人で叫んで、依里を見つけた瞬間に母親が現れ、サッと喜びが顔から消え、現実に戻されていくさまが特に印象深かった。それは彼視点でいう幸せが、自分が同時に生きなければならない現実と共存できないという事実そのものだ。

またクラスのヒエラルキーから蹴落とされないように、最下層になってしまわないように見て見ぬ振りをしてとりあえず毎日をやり過ごしているのも誰しもが一度は目にした光景であり、また残念ながら大人の世界でも散見されるものである。
それが子供と大人の2段階で見て取れる構図も世界の縮図のようで皮肉ながらよく出来ている。

依里を演じる俳優の演技は若齢にしてすでに完成されすぎていて驚いたし、自然すぎる彼の不自然さそのものがクラスで浮いているのをよく表していた。小学生特有の奇妙な行動というか、幼い可愛らしさの中に隠れ潜むちょっとした素直な狂気性のようなものが実際の人物であるかのように表現出来ていて感情移入すると共にどこか懐かしい気持ちにもさせられた。
特に地面に耳をつけて猫がいるといったり、1人でいるのに妙に陽気にはしゃいでいたところは"らしく"てとても良い。

反対に第三者の大人が現れるとやけに気が利き、行儀もいいよく出来た子だったりするところからは彼の抱える闇が辛辣に迫る。

大人になってしまった人間には子供の視点は時として全て間違ったように見えて、それはまさに宮崎駿がいう、大人とはつまらないものだという表現におさまるものなのかもしれない。
今作の表すように大人も不遇であったり様々な事情を抱えるし、第一他人が何を本当に考えているかなんて分かるわけないかもしれない。けれども子供たちが自ら別の世界に旅立たないと幸せになれない世には絶対にしてはいけない。
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