よーだ育休中

マイ・エレメントのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

マイ・エレメント(2023年製作の映画)
4.0
多様なエレメントたちが共生するエレメントシティ。火のエレメントたちが暮らすファイアタウンの雑貨店《ファイアプレイス》の跡継ぎであるエンバーには「短気ですぐにカッとなってしまう」という欠点がある。ある日、火の娘エンバーの怒りが爆発した拍子に店の水道管が破損してしまい、水の青年ウェイドが流れ込んでくる。彼は役所の検査官であり、ファイアプレイスの設備が市の基準に達していないと摘発する。


◆ 疎外された火のエレメントたち

ディズニー100周年記念の年に、ディズニーがピクサーと共同製作したコンピューターアニメーション作品。

物語の舞台となるのは《水・風・土・火》の元素(エレメント)たちが共生する社会エレメントシティ。この街はディズニー製作のコンピューターアニメーション作品『ズートピア』とどこか似通った世界だという印象を受けました。

ただ、今作では『ズートピア』以上に《マイノリティ(少数民族)に対する差別》的な要素を強く感じました。ファイアタウンから街の中心部に場面が移ると、火のエレメント達がいない事に愕然とします。

水、風、土のエレメントが既にそれぞれのコミュニティを形成していたエレメントシティに初めて降り立った火のエレメントであるエンバーの両親。開拓者としての苦労を味わいながら、特に『水のエレメント』に対する敵意を強く醸成していました。二世であるエンバーも幼い頃から不当な差別に苦しんだ描写が見受けられます。

エンバーが「共用語が流暢だね」と指摘されるシーンは何気無い一言が鋭い刃物のように感じました。(吹替で観たのですが、字幕版ではエンバーの両親に訛りが入っていたのかな?)これらの四元素は、エレメントシティに入植した順に、そのまま合衆国に暮らす人口比率の高い人種(白人、ヒスパニック、黒人、アジア系)を象徴しているようにも見えます。


◆ ユニークなエレメントたち

日本語吹替版では、登場するキャラクターになぞらえて《火や水に関する慣用句や諺》が多く登場していました。おそらく英語でも同様にエレメントにまつわるフレーズでクスリと笑いを誘っているのでしょう。

古今東西エレメント(元素)の捉え方は似通っていました。今作の《水・風・土・火》というチョイスは西洋(アリストテレスの提唱した理論)に基づいて居ると思われますが、日本(東洋)で馴染みのある五大元素(仏教)も《地・水・火・風・空》であり、西洋のそれと似通っています。

陰陽五行では《木・火・土・金・水》が万物を構成する元素であると考えられていました。今作でエンバーが鉱石に触れた際に色が変わったのは炎色反応というよりも五行思想の《火克金》のイメージに近かった気もするので、東洋的なエッセンスが加えられていたようにも感じます。


◆ 同じエレメント同士であっても…

異種族間の恋愛譚としては「お決まり」の流れでプロットは進んでいくのですが、『トイ・ストーリー3』や『リメンバー・ミー』を手掛けたピクサーさん。ラストでしっかりと大人も泣かせにきます。

ウェイドとエンバーが種族の壁を越えて分かり合えたシーンも素敵だったのですが、エンバーの家族がお互いを尊重したシーンが一番グッときてしまいました。

自分の夢や信条よりも、娘の幸せをいつでも一番に考える父親の姿には熱く胸を撃たれます。旅立つエンバーの最敬礼に応えるシーンは、過去の彼の姿と重なって余計に込み上げてくるものがありました。

今作で火のエレメントが置かれた境遇は、どこか「米国の移民」のようだと思ってしまいがちですが、これからの日本にも十分当てはまる事のようにも感じました。

今はまだ、海外からの労働者受け入れについてインフラや法整備のレベルで多くの課題が山積している状況ですが、確実に日本に暮らす外国人の割合はこれから増えていくと考えています。そうした中で、将来自分は《意地悪なエレメント》にはならないようにしたい。異なる価値観を受け入れられる柔軟な器を持っていたいと感じました。