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真冬のトラム運転手のdm10foreverのレビュー・感想・評価

真冬のトラム運転手(2020年製作の映画)
3.5
【こ、こいつ、動くぞ・・・】

ついに、ワールドカップも決勝戦まで来ましたね~。
我らがアルゼンチンもなんとか決勝まで勝ち進んでくれて、きっとマラドーナも喜んでるよ。
あと一勝、優勝まで辿り着いたら、マラドーナのことだから調子に乗って天国から降りてきてブエノスアイレスあたりで一緒にバカ騒ぎしそう(笑)

ってな感じで「季節はずれのワールドカップ(通常は大体6~7月頃の開催)」も大詰めというところで、徐々に季節感をノーマルモードに戻しましょうか・・・なんて思っていたら、街はすっかりクリスマスモード。
さらに郊外のショッピングモールに行けば、入り口付近にはもうお正月飾りまで並べられている。
・・・相変わらず節操のない国じゃのぉ。

ということで、順番にイベントをクリアしていこうかね・・と「クリスマス映画」を検索中のdmでございます。

こういう時って劇場公開作品よりもサブスクや配信系のほうが特集を組みやすいっていう利点はありますよね。
そんな感じで久しぶりに開いた「ブリリア~」で見つけた短編をチョイス。

――クリスマスの夜。凍えるような寒さの中で一人トラムを待つエバ。
ようやく到着したトラムは「発車までまだ30分あるから・・・」という理由で彼女を乗せてくれない。
寒さに耐え切れなくなった彼女は、運転士が降りた隙を狙って無人のトラムに乗り込んでしまう。
しかし、無理やりこじ開けたドアの閉め方がわからない彼女は、運転席に近づき徐に操作パネルを弄りだす。
そして、彼女が間違って押してしまったのは「発車ボタン」だった。
それはまるでアムロが初めてガンダムを動かした瞬間のようなドキドキ感・・・。

物語自体はエバが引き起こす「ちょっと迷惑なプチ・ロードムービー」のようなテイストで幕を開ける。

でも、彼女が動かしているのは公共交通機関の「トラム」であって、一般の市民はまさか素人が運転しているなんて夢にも思わずどんどん乗車してくる。
逃げられなくなったエバは仕方なく「運転手」を続ける羽目になってしまう。

そこから徐々に怪しくなる雲行き。
トラムの中で繰り広げられる「マイノリティへの差別と偏見」
若い男2人組に絡まれていたのはアリエルという「男性」。
彼は女装をしていたので、見た目は女性「トランスジェンダー(あるいはクロスドレッサー)」だったのです。
それに気付かずに言い寄った男たちが「彼」が男であることに気が付いた途端に逆上し、彼を罵倒し始めてしまいます。

しかし、他の乗客は見てみぬフリ・・・
いたたまれなくなったエバは意を決してその男たちの元へ歩み寄ります・・・・。

結局、この物語が言いたかったこと(伝えたかったこと)って何なんだろうか・・・って考えたとき、単純に「マイノリティへの差別はイカン」とか、そんな薄っぺらい話でもないような気がしたんですね。

差別というものが、先の「若者二人組」のように直接的なダメージを与えてしまうという自発的、能動的なものだけではなく、もしかしたら「事なかれ」という気持ちが優先した結果、目の前で起きている差別的な出来事から目を逸らしてしまうということも、間接的にダメージを与えていることにはならないだろうか?

(誰も助けてくれない・・・)

トランスジェンダーのアリエルに限らず、この物語の主人公であるエバも(恐らく)小人症だと思われるが、彼女が冒頭でトラムの運転手から受けた何気ない意地悪も受け取り方によっては「差別的」な言動であるし、もっと突き詰めれば「トラムの運転手」という職業自体も、乗客からは「運転だけしてりゃいいんだよ」と見下される「職業差別」を常に受け続けているのかもしれない。

「差別はイカン」

それは当たり前。
でも、「意図的に行う」ことだけが差別なのではなく「何もしない(無視をする)」という行為も、彼らにとっては同等か、もしくはそれ以上の苦しみを与えてしまうのかもしれない。

ラストの展開で、ちょっぴり溜飲が下がる感じはあったけど、でもやっぱりこの先もいろんな事があるんだろうな・・・っていうほろ苦い余韻も残りつつ・・。

「今夜はクリスマス。楽しみましょ。」
二人が笑顔で終わってくれたのが何よりでした。

トラムという日常的なものを「呉越同舟」的な位置づけで用いて、その中で起きた出来事はまさに「彼らの日常」といえるのかもしれない。
そしてそこからエスケープすることを選んだのもある意味ではとても現実的で賢明な判断だったんだろな・・って。

「差別」に対して徹底的に立ち向かうことができる様な強い人ばかりではないと思うし、そもそも立ち向かうということは「差別に差別で向き合う」という負のパワーを要する事にも繋がるし。
悪意を持って接してくるような愚かな奴には近づかないのが一番。
それはマイノリティもマジョリティにも共通して言える護身術なのかもしれない。
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