ビンさん

愛のこむらがえりのビンさんのレビュー・感想・評価

愛のこむらがえり(2023年製作の映画)
3.5
シネ・リーブル梅田にて鑑賞。

先月観た『渇水』の記憶も新しい髙橋正弥監督の最新作。

売れない映画監督と彼を支える妻との物語。
脚本は髙橋監督ではなく、加藤正人氏。

香織(磯山さやか)は、地元(茨城県鉾田市)で開催された映画祭で、賞を獲った映画にいたく感動し、スクリプター(記録係)になるべく上京する。
そこで、彼女を映画の道に進ませるきっかけとなった、件の受賞作の監督、浩平(吉橋航也)に再会し、両親の反対を押し切って同棲をはじめるのだった。

しかし、8年経っても浩平は助監督のままでいっこうに監督作もなく。
それでも彼の才能を信じる香織は、務めるパン屋での収入を生活費に充てている毎日。
が、自分の才能に限界を感じた浩平は監督を辞めると言い出すが、香織は彼を叱咤する。
目が覚めた浩平が、そこで書いた脚本が「愛のこむらがえり」。
それを、各プロデューサーへ売り込む2人だったが、はたして映画は完成するのだろうか、というお話。

脚本を書かれた加藤氏の前に、本作の原案というのがあって、それがどういう経緯を経て映画になったのかは、パンフレットに詳しく書いてあるので一読されればいいと思う。
まず、前半までは確かに映画業界という、映画ファンならともかく、一般にはあまり触れる機会のない世界を描きつつ、夫の才能を信じ続ける妻の姿というは、ちょっとステレオタイプかな、と。
最近は「内助の功」って言葉も、使うとあれこれ難しい問題が関わって来るのだろうが、それでもよくある話かな、って思いで観ていた。

が、脚本が完成し、いざ映画会社へ売り込みに行こう、という段になって、香織の知人のプロデューサー(菜葉菜)が、売り込み講座を香織と浩平に伝授するシークエンスから俄然面白くなる。

というのも、この辺りから映画業界へのディスりネタが次々飛び出してくるのだ。
諸々監督やプロデューサーさんたち、けっこうリスキーなんじゃないのかなぁ、そこまで描いていいのかなぁ、と、観ているこっちはむちゃくちゃ面白いのだが、ちょっと心配になってくるほどに(笑)

と同時に、浩平が憧れていた監督(品川徹)や、是非映画に出てほしいとオファーする人間国宝級の俳優(柄本明。またしても登場‼️)との関わりの中で、映画を作る側、観る側双方に共通する、ある含蓄のあるワードが出てくる。
それはここでは書かないので、是非映画を観て確認してほしい。

全体的にハートウォーミングなコメディ要素もあるホンワカとした映画というイメージであり、実際そういう映画なのだが、上記のワードを登場人物に言わせた処が、本作の唯一無二の大きな魅力であり、映画好きを公言されている向きは、是非観てほしい一作だ。

と、映画自体はとっても印象良かったのだが、こき下ろすようで申し訳ないが書かずにおれないことを。

7月1日のシネ・リーブル梅田での上映では、髙橋監督、磯山さやかさん、吉橋航也さんの舞台挨拶があるというので、チケットのネット販売時間と同時に予約したところ、最前列2列目まで既に埋まっている状態。
そんなに本作は評判なのか、と正直驚いた。
が、実際の上映回には上映中2列とも誰も座っておらず。
おかしいな、と思いつつ上映が終わって舞台挨拶が始まる直前になって、いわゆるマスコミ関係の写真担当(?)がゾロゾロ入って来た。
しかも、2列目は空いたまま。

そして舞台挨拶が始まり(監督はじめ登壇のお二人のトークも楽しいものではあったが)、いざフォトセッションとなったが、写真はその後で入って来た、本編も観ていないマスコミ連中のみで、入場料金払って観に来ている我々観客は撮影しないでくれ、と。
ちなみにチケット予約のサイトには、マスコミが入る云々は明記されていたが、「ありがたくも入場料金払って入場されたお客様向けのフォトセッションは、誠に申し訳ないですがございません」
という記述は一切ない。

いや、よくこれで文句出なかったなと思う(実際、出たかも知れないけど)。
僕も直接劇場スタッフに進言せず、ここで姑息に書いてるだけだが、あれはあまりにもあんまりなんじゃないか?
司会の方も、スポーツ新聞等でこの舞台挨拶の記事を見かけたら、あの場に自分も居たんだよ、と拡散してください、って言ってたが、正直はぁ? ってなもので。

先述のようにリスキーなシークエンスもあるが、敢えてそこをカットせず描いた意図と、映画を愛する者の宿命ともいうべきワードに感激した旨、監督に直接お伝えしたいと思ったが、当然そんな場も設けられず。

配給会社の采配か、劇場側の采配か、はたまた磯山さやかさんの事務所の采配か、映画自体は印象良かったのに、舞台挨拶の印象は良かったとはいえない残念なものだった。

来週の某映画の舞台挨拶も、同じような内容なのかもしれないな。
でも、作り手側と観る側の交流が図れる、貴重な機会だと思うのだがなぁ。

あ、これをネタにシナリオ書いてみるか(笑)
ビンさん

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