ビンさん

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたいのビンさんのレビュー・感想・評価

3.5
タイトルだけを見れば、企業のコンピューターシステムを破壊するハッカーの映画かと思いきやさにあらず。

乱暴な言動、行動が抑制できない子供のことをいうのだそうだ。
そんなシステム・クラッシャーの少女の姿を描いたドイツ製ヒューマンドラマ。本国では2019に製作、公開された。

9歳の少女ベニー(ヘレナ・ツェンゲル)は、幼少期に受けた父親の暴力が原因で、自身の感情が抑えられない。
特に顔を触られると、発作のように暴力的な言動、行動によって大きなトラブルを起こしてしまい、施設を転々としている。
そんな彼女をソーシャルワーカーのバファネ(ガブリエラ=マリア・シュマイデ)や、非暴力トレーナーのミヒャ(アルブレト・シュッ)は根気強く対応している状態。

またしても施設で暴力的な行動を起こしたベニーに、ミヒャはある提案をする。
それは自分と一緒に自然の中で数日過ごすことで、ベニーの心の変化を期待したのだった。

結局、ミヒャの思惑は大きく外れて、以前と変わらず暴力行為に走るベニー。
さらに悪いことに、ミヒャは自宅にベニーを連れてきてしまう。
ミヒャには身重の妻と幼い息子がいて、妻はベニーを優しく受け入れるのだが。

この後の展開が正にホラー映画。
ミヒャの家に行ったベニーは、彼に自分の父になってほしいとねだる。しかも、ミヒャの妻と子供を殺したら、ミヒャを一人占めできる、なんてことを平気で言うわけだ。

そういう前フリがあって、ベニーはとある里親の元に行く。
しかし、そこでまたもや暴力行為を行ってしまい、挙げ句にミヒャの家に逃げ込むのだが、彼の幼い息子を連れて部屋に閉じ籠ってしまうのだ。

その後の展開については、実際に作品で確認を。
取り返しのつかないことが起こるんじゃないかと、ドキドキしながら観ていた次第。

映画を観ていて思ったのは、ベニーの暴力行為の様子は、あの『エクソシスト』のリーガンそのもの。
システム・クラッシャー自体が今に始まったものでないのなら、いわゆる悪魔憑きという行動は、本作のシステム・クラッシャーなんじゃないかと(劇場パンフにも、2作品の共通項を挙げておられる記事が掲載されていた)。

ただ、本作のベニーはナチュラルボーンではなく、父親の暴力でシステム・クラッシャーになったわけで、結局の処、子供の成長には親の対応が大きく左右するのであって、そういう意味では本作のベニーもまた被害者なのだ。

とにかくベニーを演じたヘレナ・ツェンゲルの演技が凄まじい。
この映画でドイツ本国の映画祭にて最年少の主演女優賞を獲得したのも納得である。
ただ、演技が凄まじいので、彼女自身のメンタル面でのケアができていたのか心配ではある。

様々な解釈ができる印象的なラストシーン。
僕はアンラッキーな解釈をしたのだが、観る人それぞれの決着の付け方があるだろう。故に奥深い映画だった。
ビンさん

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