NANCY

その夜の侍のNANCYのレビュー・感想・評価

その夜の侍(2012年製作の映画)
5.0

久しぶりの邦画観賞。
堺雅人の魅力に惹かれて。

蓋を開けてみれば何とも豪華なキャスト。
堺雅人、坂井真紀、綾野剛、山田孝之、木南晴夏、谷村美月、でんでん…などなど。

5年前に妻を殺された堺雅人が、加害者である山田孝之に復讐をする、というのが大まかなストーリー。

しかし本質は復讐劇よりも、日常の「平凡」について、深く深く掘り下げた映画であると感じた。
劇中に何度も出てくる「平凡」という言葉。
「平凡は全力で作り上げるものなんですよ」という台詞が心に残った。

復讐よりも「平凡」さを選んだ堺雅人と、異常なまでの非人道的価値観と言動をする加害者の山田孝之。
両極端にいながらも、どこかお互いに似ている部分を感じた。

とにかく話がどこまでもリアルで、カメラの写し方が素晴らしい。
日本人にしかわからない様な台詞の言い回しだったり、リアル過ぎて逆に違和感を感じてしまう程の演出。
そしてそれを完璧なまでに演じ切るキャスト。

その人間のリアルさや、役者の持ち味が最大限にまで引き出されているので、最初から最後まで引き込まれる。

あっという間の2時間だった。

堺雅人は主役でありながらも台詞がかなり少ない。
亡き妻の留守電を聞きながら糖尿病で禁じられたプリンを毎日馬鹿食いする堺雅人。
工場の社長でありながらも誰にも心を開いていない。
堺雅人の孤独感が、彼の表情や言動から痛いくらいに伝わってきた。

それに対し、加害者である山田孝之は、本当のクズ人間。
でも、こんな輩絶対いないよ!と言えないのがこのクズ人間を演じた山田孝之の凄さと脚本、演出だろう。

何気無い虫の話にも心打たれた。
コガネムシが溶接中に火の中に飛び込んでくる。
そしてそれが何とも臭いのだと言う。

「平凡」からかけ離れたものを溶接場の「火」と例えたならば、堺雅人は、その火の中に進んでいる様に観えて仕方がなかった。
実際にそういう事だったんだろう。
亡き妻の留守電を毎日毎日聞き続け、骨壷を墓に入れず、やめなさいと言われたプリンを馬鹿食いする。
堺雅人は妻を失った5年前から復讐や、加害者という「火」に向かって突き進んでいたのだろう。

しかしラストシーンで、堺雅人は「平凡」である事の素晴らしさを見出す。
それは皮肉にも、加害者である山田孝之の「何と無く生きている人間」を5年間、ずっと見続けたからこそ辿り着いた道なのだろう。

「何と無く生きている」という「平凡」さと、まともに、真面目に、人生に向き合う「平凡」さ、それが堺雅人と山田孝之の違いだったのではないかと個人的に思った。

今作で監督新人賞を獲得したらしいが、それも頷ける。
しかしこの作品はキャストに救われている様なものだ。
今後、こういう日本映画臭い日本映画をバンバン撮って、日本映画を面白いと感じさせて欲しい。

今作の魅力と、今後の期待にかけて、星は満点をつけます。
僕が邦画で満点をつける事は殆どない!
でも、ここまで引き込まれたからには、ね。
堺雅人に星5で、周りのキャストに星5で、監督に星3で、今後の期待に星5、よって星5をつけます!!!

とても素晴らしい映画でした!

満足!
NANCY

NANCY