WNT

波紋のWNTのレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
3.7
ある日夫が出て行ったまま家に帰って来なくなる。
月日が流れ息子も地方大学に進学し家には妻の依子がひとりで住んでいた。
夫が出て行ってから依子は新興宗教を信仰しひとり慎ましく日々を過ごしていた。
しかし突然失踪した夫が帰ってきて、癌治療のための新薬のお金を出してほしいと依子に縋る。
静かで穏やかだった彼女の心は波紋を呼びざわめき揺らぎ始める。

夫に尽くし息子を育て家を守り続けてきた依子。
平和に暮らしてきたはずなのに自分勝手な夫は突然失踪しひとり立ちした息子も家に寄り付かない。
身も心も犠牲にして献身的に尽くせば何事も報われると信じる彼女は新興宗教にのめり込むことよって心を保っていた。

夫が癌になり息子が連れてきた婚約者は障害を持ちパート先では客に理不尽に怒鳴りつけられる。
どれだけ心を清らかに持っても心の黒い部分は消し去ることができず、次第に負の感情が溢れ出すようになっていく。

誰しも持ち合わせている性格の悪い部分や人には言えない見せられないけれどこんなことを思っている、やっていることを描くことで主婦の心のなかをうまく表現している。
聖母のように優しく寛大な心でいられないときもあり感情をコントロールするには限界がある。

いまにも崩壊しそうな自分を保つために依子が我慢し何かを信じ続けることで報われると思いたい気持ちは、私たち生きてきたなかで経験したことのある我慢や感情を彷彿とさせブラックコメディとしてユーモアを交えて昇華している。

こういうときある、こんな気持ちになったことがあると共感するシーンが多いのに楽しめる新感覚の作品だった。
絶望エンターテイメントという言葉がぴったり。
WNT

WNT