柊

波紋の柊のレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
4.1
これは思ったよりも私には刺さったなぁ。

本来ならまぁ失踪した夫は別だけど、宗教にはまりお金を注ぎ込む哀れな中年女性となれば全然共感できないのに,そこはやっぱり筒井真理子だ。
めちゃくちゃ共感してしまう。
教義上,徳を積まねばならぬので失踪して戻ってきた癌の夫にも居座られ、義父の遺産云々をかまされる。
挙句は大事な一人息子に最後にはお父さんはお母さんから逃げたんだよ。と言われる始末。

やっといろんな縛りを乗り越えて、自己責任で宗教にはまったとしても、ひとり暮らしを確立してたのにだ。枯山水の庭を綺麗に整えて心のさざなみを立てずに生き始めた所に夫、さらに恋人を連れた息子の帰宅。波風立ちまくり。何故母はいつもいつも誰かの影響を大きく受ければならぬのか?
息子と聴覚障害のある恋人も決して良い人ではない。むしろ苛立つくらい図々しい。これは障害があるから…という前に人として図々しい。そんな恋人を無神経に連れてくる息子だって同じだ。
磯村勇斗いい役者ながら今回はちょっと一面的な役で…このところ出過ぎじゃね?ってくらい顔出しすぎ。もちろん磯村勇斗が出るとなれば期待値も上がるけど安物買いの銭失い状態になってないか?

筒井真理子と木野花との会話に一番共感する。決して悪人ではないけれど、誰でも心の中に持つ暗い部分をあけすけに口に出す心地良さ。だからと言って全てを話すわけではなく更に奥にもっと暗い物を抱えてそれでも生きる。みんなそう。
何でもいちゃもんつけて半額で物を買おうとする柄本明。その奥底には弱い人間がいるかもとクレーマージジイに寛容になる心の理由。
それは宗教では体得できなかった本来の人の気づき。
何が良くて何が悪いかなんてはっきりさせること事が最善とは限らないし、新興宗教が悪とも言い切っているわけではない。人は善悪併せ持ってバランスをとりながら生きているもんなんだなって…ちょっと思う。

誰1人褒められた人はいないけど(お隣さんの安藤玉恵然り)それでも人生は続くし人は生きていく。
最後に息子の助言で,昔フラメンコをしてた事を思い出し,雨の中喪服の中の赤い襦袢を翻して踊るその姿に振り切った女の潔さを見た。

エンドロールで、安藤玉恵,江口のりこ、平岩紙,ムロツヨシと続いた部分で、この作品見る価値が私にはあった。
でもムロがどこに出てたか???だった。いったいどこに?
柊