金宮さん

波紋の金宮さんのレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
3.5
バイオレンスのない、陰湿な全員悪人系ムービー。邦画では手垢のついたテーマにも感じるが、ここまで色んなパターンが登場する、ある種シチュエーション大喜利的作品は意外と観たことがないかもしれない。

特に前半で畳みかけるような皆さんのクズっぷりのオンパレードは思わず笑ってしまう。

歯ブラシ排水溝は旦那デスノートでお馴染みすぎるが、「必殺技"夫がガンなんです"カミングアウト」「450万円の点滴が垂れるごとに"15まーん、20まーん、25まーん"とカウントアップ」あたりは、おお!ってなりました。

深刻と見せかけて、随所にはさまるチープなハンズクラップ効果音が昭和末期から平成初期のライトなブラックコメディを想起させる。『バカヤロー!』とかその辺の作品を見てる感じに近くなり、笑っていいんだと思えるその個性も好みでした。

ただ、全体的にメタファー演出があざとい、というかちょっとダサい。タイトルにもなっている「波紋」は「人を呪わば穴二つ」的な負の連鎖の象徴なんだろうけど、ちょっと出しすぎかな?

ラストのフラメンコもしかりで、多分「苦しさや貧しさを伝える→情熱でそれを解放する」っていう踊り由来のメッセージが想像できるんだけど、それを出したすぎて唐突なんだよなあ。ちなみにフラメンコの意味なんてわからないので検索しました。モチーフの意図がすっと入ってこないのも具合が悪い。

荻上直子監督は他作品での印象からきっと根がいい人なので、悪意で人を突き刺す描写はちょっと向いてなかった気がする。木野花さんが倒れたあたりから全体的に急速な和解につながっていくのにもそれを感じた。

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一方で非常に白眉な設定だと思ったのが、主人公と新興宗教の関係。あの場に嫌がらせ対象の夫とか息子彼女を連れて行くってことは、「嫌な場所」という自覚症状はあったことになる。終盤で箱に入った超高額商品を提示された時の表情なんてその現れだろう。

となると、ある種で必要悪的に折り合ったうえでどっぷり浸かっていたわけであり、新興宗教にはまるキャラの造形として味わい深く、実際はそういう人の方が多い気もする。
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