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せかいのおきくのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

せかいのおきく(2023年製作の映画)
3.8
このお話は排泄物を汲み取り、農家に売っている中次と寺小屋で書道を教えるおきくのささやかな恋の物語。江戸は安政の頃、明治の足音が聞こえていた混乱の時代。そして、人々の世界観が大きく変わろうとしていた。

黒木華さん演じるおきくがまるで江戸末期に実在したかのような存在感でよかった。中次を恋する気持ちを表すシーンがすごく可愛い。中次役の寛一郎さんは佐藤浩一さんと親子出演しています。

そう、この作品は悲運にも毅然と生きる武家の娘おきくと、汚穢を運ぶ中次の身分違いの恋だけれど、どうにもこうにもウンコなしには語れないつくりなのがおもしろい。江戸末期、混迷の時代の町人、武家、農家それぞれの暮らしや苛立ちが描かれていたが、中次とその兄貴のヤスケから見れば皆出すものは出すから皆同じ。封建制度上の身分の区別はあっても人間の生理からは皆平等。

兄貴役の池松壮亮が最初主役かと思ったほどだったが、脇を固める人たちもよかった。お坊さんの真木蔵人がいい味出していた。


続編が観たいと思った。


以下、徒然に…

今でも近くにぽつんぽつんと畑は残っているが、子どもの頃、あそこは肥溜めだから気をつけようと、子ども同士で注意しあったことがある。糞尿を<肥え>と呼ぶ循環のシステムもいつの間にか消えた。教科書に野菜をよく洗わないと口からぎょう虫を摂取することになるといった子どもながらに衝撃の循環図はもう掲載されていないだろう。祖母は近くの電鉄を昔は肥溜め電車と呼んだと言っていた。海岸近くに住んでいた幼少の頃、汚穢船が沖で捨てた汚物が潮の流れで浜辺に打ち上げられ、たびたび海水浴は中止になった。
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