柿トマト

君たちはどう生きるかの柿トマトのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.0
「君たち」とは一体誰のこと?タイトルから考える「君たちはどう生きるか」

日本を代表するアニメーター・監督の最新作がついに公開。その「宣伝をしない」異様な宣伝方法も相まって謎が謎のまま封切りされてしまった作品だ。当然宣伝されてないのだから、こうやって文章に認めるのも一苦労。なにせ物語本編のことに少しでも触れると「ネタバレ」の危険性があるからだ。

明かせる情報といえば「宮崎駿監督、スタジオジブリ最新作」「タイトル」「キービジュアルにもなっている謎の鳥のようなもの」ぐらいだろうか。さらに言えば、以前にインタビューでプロデューサーの鈴木敏夫が「宮崎駿の自伝的な要素」「ファンタジー」であると語った点もあるので、これがネタバレの範囲外だという前提に則ってこの文章を続けていく。

タイトルの「君たちはどう生きるか」は、1937年の吉野源三郎によって書かれた児童向け小説。コペルというあだ名の少年が、社会問題や、学校での友達との問題にぶち当たり、叔父の助力を得て精神的に成長するいう物語だ。しかしながら、本作ではこの小説の映像化作品ではないことも事前にニュースで明かされている。

ではなぜ、この映画はタイトルを「引用」したのか?個人的には監督の前作「風立ちぬ」(2013)にヒントがあると思っている。

「風立ちぬ」は航空技術者・堀越二郎の半生と、作家・堀辰雄の自伝的小説をベースに、映像作家として宮崎駿が、クリエイターとしての性を赤裸々に語った作品だと思っている。好きなものを追いかけるあまり、世界を破壊してしまった男が、最後に赦しを得る物語だった。

これをベースに本作「君たちはどう生きるか」を考えると、宮崎駿が自身のことを語り尽くした次に選ぶ題材は、ジブリという会社についての話になるのではないか?という発想に至った。つまり「君たち」とは観客の我々のことではなく、「若きクリエイター、特にジブリに貢献してきたアニメーター」についてのお話ではなかろうか。そう考えれば年齢的にキャリア最後になるであろう宮崎駿のメッセージとしては重みを帯びてくるような気がしてならない。

ここまで「妄想」でベラベラと語ってきたことにお許しを。しかしながら、こういう含みを持たせていることも確かな作品であるのは間違いないし、見る人によったら全く別の解釈も可能だろう。それぐらい物語としての余白が多いのも確かである。
柿トマト

柿トマト