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君たちはどう生きるかのcalinkolincaのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

母を亡くした少年の、愛と人間と血族と時代と命のバトンをめぐる一大叙情詩。

亡くした母への思慕と新しい母親と母を裏切った父への軽蔑、母親のお腹に宿った子への複雑な思いから、こころを閉ざした少年・眞人が青鷺(時代を超えた存在)に導かれて自分の知らない時代を支えてきただろうキリコと、実の母親であるヒミ、そして彼女らとの出会いを通し、いつしか自分の母親になってほしいと願うようになっていた新しい母親、ナツコを救うことで新しい家族を、自分の血族を、新たな時代を受け入れる物語、だと私は受け止めた。

前半は何について語られているのか分からず話が進んでいることが正直不安だったが、物語の本筋が見えてくると俄然面白くなり、あの長く感じたインプットの時間はこの映画を理解するのに必要だったのだ、と納得できる。

すごく言葉にしづらい映画だし、観る人によっては難解かもしれない。けれどこの、きれいなだけではない愛や憎しみや葛藤や絆といったテーマをファンタジーの格好をとって表現したこと、そして最後まで観れば必ず宮崎駿監督の伝えたかったことがちゃんとこぼれ落ちずに自分に伝わってくることがすごいな、と。

この映画が宮崎駿監督にとっての82歳にしての新境地なのか、今まで商業映画を作るために抑えていた部分をブワッと解放したのかどちらかはわからないけれど、わかりやすい体裁をとらなくても独りよがりな作風にならず、この時代に82歳の監督が次の世代へのメッセージがごろっと詰まった映画を作れることに、感動さえ覚えた。

映画の中で私がいちばん好きだったのは大叔父に塔の主を次ぐよう言われた眞人がそれを断り、この争いや血の絶えない悪意のあふれる世界で生きていくことを決意したところ。この、とても美しいとは言えない悪意に満ちた世界でこそ、君たちはどう生きていくのか。そこに、このタイトルの、この映画の意味が詰まっている気がした。
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