一条

君たちはどう生きるかの一条のネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

結論から言うと、この映画はストーリーとかディテールを気にしたり考察したりする映画ではなく、スタジオジブリ、及び制作協力のスタジオが作りあげた、壮大なアニメーション映像としての受け取り方をしました。
その上で無為な感想を描きます。
本来はこんなこと書かなくていいんだけど、感じたので書かなければならない。この映画がそう言ってる気がするから。

ジブリ作品、というか宮崎駿監督作品を全て一気見した感覚を得られる映画でした。
演出の仕方とか、ジブリ的な記号で溢れかえっている。日本国民で多少文化的な生活を送っていたら確実に見た事があるであろう「ジブリっぽい」演出だらけ。それを本家本元のジブリがやるんだからそりゃ結果として質のいいジブリMADみたいになるよね。
女性キャラのキャラクター性もとてもジブリらしい、どこかで見たことのある人物像。
ウルトラ母性を併せ持つ純真な少女、超越的な姉御肌の女性、妙に頭に残るババア。
何だかスタジオジブリの、というか宮崎駿の演出論のイデアを見た気がします。

そして冒頭の火事のシーケンス。
周りがゆっくりに見えて強調される。音がハッキリ聞こえない。目指す目標ははっきりと見える。
あのアドレナリンが出ている緊迫感をモノローグなしで作画だけで表現しきるのは、さすが日本を代表するアニメスタジオの新作を見に来たと思わされる演出だった。
ただ気になる部分はいくつかあった。ババア行進の謎の動画の枚数の多さとか、帆船が背景と平行に移動するだけとか。でもまあこんなのは重箱の隅をつつくようなものだと思うのでそれでいいと思います。
制作協力に名前を連ねるアニメスタジオが大物すぎてたまげた。この映画を作れるアニメスタジオ、それにサポートとして参加出来て、クオリティを維持できるスタジオがあるのは、なんというかこれからのアニメ業界に希望が持てました。頼んだそポノック、YoPic、カラーたち……

ストーリーについて。
多分様々な背景、含意があるとは思うけども、自分が受け取れた分だけ描きます。
モチーフのひとつは、スタジオジブリないし今のアニメ業界の在り方なんじゃないかと。
下の世界の海、クリエイターをクリエイターたらしめる創作の源泉からの収穫、殺生を行うクリエイターの擬人化としてのキリコ。その収穫を糧にこれからクリエイターになろうと志すワラワラ。
殺生、ないし創作は出来ないがそれを享受したいこのレビューを書くような人間の幽霊たち。
ワラワラを食らい、食い物にする、元々は上の世界、良い創作物を世に排出することを夢見たが叶わなかったペリカン。
良かれと思って引き入れたが統率が取れないほど侵食し増えてしまったインコたち、クリエイターに寄生し、我が物顔で創作物を支配する商業主義の関係者とそれを統べる王。
創作という道に引きずりこむキッカケとなり、冒険の道標として時には乗り越えられない壁として、時には助けとなり、自分の中に存在する理想のはずなのに傷つけてしまい、自分の手でしか治すことの出来ない足枷であり希望であり、原体験としてのアオサギ。
商業主義という悪意に汚染された作品たち、石の欠片、積み木。そして悪意のない積み木。
そういう含意を僕は汲みました。

または、宮崎駿の自伝としての表現。
成金で金に物を言わせるが、その行動はどこか善意か、金を持つもの、貴族性をもつ物の義務を感じさせる父親。世話になる女中たちには手厚い土産を持って来て、新妻と息子が行方不明となると武器とロウソク、そしてチョコレートを持ち出し探し回る。
眞人から見れば、戦争によって金を稼ぎ、その金で享楽的に生きるように見えるが、その実本人は「金を持つとは金を使う責任を持つ」とでも言えるような人生観の元で行動しているように思える。
女中に敬語で接する姿は、明らかに「嫌な成金」の姿勢では無いと思う。
これは今現在における宮崎駿の実の父親に対しての咀嚼の結果なんじゃないかなと。

そして眞人に対する自己投影、大叔父に対する自己投影。
隕石、天からの贈り物である創作の才能による新たな世界の構築と、その崩壊。
血族であれば後継となれると信じたこと、それを否定したこと。
創作物から受け取った、いずれ忘れる、感銘や憧れのような大切なお守り。
父親に対する複雑な思いと、嫌いにはなれない距離感。そしてその父親を利用したという悪意。

伝えたかったことのひとつは、クリエイターとしての「原体験・原動力」となるものの存在とそれを拾ってしまった者の地獄、苦しみ、そして創作の可能性。
またもうひとつは、宮崎駿、スタジオジブリとしての総決算、セルフオマージュ、エッセンスの凝縮と放出。
またもうひとつは、アニメーション業界の功罪、現在。

鑑賞して5時間の時点での感想はこんな感じです。
多分、数日したら咀嚼が完了すると思う。
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