ケロルドユースケ

劇場版 SPY×FAMILY CODE: Whiteのケロルドユースケのネタバレレビュー・内容・結末

劇場版 SPY×FAMILY CODE: White(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

【キャラクターへの愛が溢れる子供向けエンタメ】

 鬼滅の刃や呪術廻戦にはじまる、最近の漫画原作アニメの劇場版の高品質ぶりは本当にすごい。このSPY×FAMILYも例に漏れずとてもレベルが高く、作り手がファンに対して誠実で、キャラクターへの愛に溢れた作品だった。

 純真さと心が読めるゆえに小賢しい行動をすることで愛らしいコミカルさを生むアーニャ、スパイとしての強い使命感とハイスペックに天性の人の良さを両立するロイド、一人だけ完全に別の漫画のフィジカルと暗殺技術を持ちつつ母性と天然さも併せ持つヨル、この作品は結局この3人のキャラクターを順番に立たせながら様々なシチュエーションに放り込むキャラ萌え作品だと思う。
 この映画は、そんな作品の持つ性質をよくわかっていて、とにかく各人物のキャラ(性質・人間性)を際立たせることに集中していて、それがレベルの高い作画や演出と相まってファンをものすごく楽しませてくれる。エンターテインメントのお手本のようなアニメ映画だ。

 今作オリジナルの敵に、この手の映画にありがちなタレント声優として、中村倫也と賀来賢人が起用されているが、この二人の声優演技がとても上手だった。キャラクターの位置付け的にゲスト声優っぽいな思ったが、そういう穿った目をしなければ本職の声優と思って何も違和感のない素晴らしい仕事だった。こういう役者を起用するところにも、ファンをガッカリさせないように丁寧に作品作りをしている姿勢が伺えてとても好感を持てた。

 と、良かったところを一通り述べたところで、実際、脚本にはだいぶ難があったのも事実。
 但し、これらはあくまで原作シリーズの一番美味しいところつまみ出して映画化した鬼滅の刃や、そもそも完成度の高い短期連載作品を映画化した呪術廻戦に比べた上の、ハードルをだいぶ上げた評価である。

 まず、これはもうそもそも原作から存在する作品の根幹に存在する問題点だが、この作品、基本的にアーニャの学校のちょっと現実離れした設定か、ヨルの信じられないおバカっぷりによってしか物語がドライブしない。
 互いの裏の顔を隠して偽装夫婦を演じるという設定は、名探偵コナンにも通じる王道のそれだが、あちらがコナンくんが蘭ちゃんに一方的に偽装しているのに対して、こちらはロイドとヨルの互いが素性を隠し合い、そして互いに気づかないというかなり危うい状態をなんと10巻近く維持し続けている。
 しかもロイドはあらゆる分野に精通したスーパースパイで、ヨルは向かう所敵なしの最強殺し屋という設定である。この状態で互いが互いの設定に気づかないという条件をクリアするために、毎度この作品内では「ヨルがその実力を発揮する場面にはいつもロイドがいない」「ロイドの多彩な能力を見ても正体を疑わないのは、ヨルがとんでもないおバカだから」という展開が用いられる。これが苦しい。何が苦しいってこのために基本的にヨルはそんなやついねえよというレベルのおバカになってしまうし、いつも蚊帳の外になる。
 今作でも、終盤ヨルが超人的能力を発揮する迫力の戦闘シーンがあるが、冷静に考えればヨルは結局戦っている相手が誰かも、その目的も知らず、ただただ(文字通り)降りかかる火の粉を払っただけ、実は居ても居なくても同じだったと気づいてしまう。
 ヨルにはヨルなりの背景があるので、できればロイドたちとは違う(殺し屋としての)必然性を持って今作の敵と相対することができれば、そしてその上で偽装夫婦がタッチの差で互いの正体に気づかないような絶妙なストーリー展開があれば、もうこれは言うことなしの傑作になったのに、と少し残念。

 また、この作品、そもそもロイドの任務のために結成された偽装家族というのが前提だが、今作、地味にこの前提が崩れそうになる危機が提示される。視聴者からすれば大問題なのだが、実際あまりそこが深刻に描かれることはない。しかもその解決方法も最後結構雑だ。じゃあその設定いらなかったじゃん、となる。

 敵役も、惜しい。前述の通りゲストタレント声優のお芝居は素晴らしく、ボスの銀河万丈もその名声に相応しい素晴らしい演技だった。サノスの迫力を思い出した。
 ただ、見終わってみれば、結局こいつら何がしたかったん?という感じだ。「東西の均衡を破る」「共和主義の連中が喉から手が出るほど欲しがる」みたいないかにもそれっぽいセリフは至る所に散りばめられていたが、まあぶっちゃけ多分「戦争を起こそうとしてるヤバ軍人」以上の設定はなかったと思う。ロイド達が注文したケーキを横取りするシーンもシンプルに大人気ないし、残念ながらあまり魅力のない敵役だった。チョコにお宝を仕込んで運ぶというのも冷静に考えて意味がわからないし、そもそもそのお宝と起こそうとしている事件の関連性も見えないから、ロイドたちが何を阻止しようとしているのかもよくわからなくなる。スパイ映画の基本的な「もっともらしい理屈づくり」がおろそかになっていた。残念。ていうか、この作品原作からして基本的に敵に魅力がないんだよなそういえば。

 真面目にやれば”初期の”劇場版名探偵コナンのような、クセのある設定とキャラの登場人物達が事件に巻き込まれ、それぞれの特徴を活かしながら悪い奴をやっつける、みたいなテンプレートを作れるはずなのに、ん〜、惜しかった。