netfilms

インフィニティ・プールのnetfilmsのレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
3.8
 冒頭からカラフルでビビッドな背景の中、印象的な文字列が連続して並ぶ。もう本当にセンスの塊のようなアヴァン・タイトルは必見で、これからどんなセンセーショナルな物語が始まるのかとワクワクするのだけど、いざ蓋を開けてみればどこかで観たようなエピソードの羅列でしかない。これは私の孤高の天才デヴィッド・クローネンバーグの愛息子であるブランドン・クローネンバーグ評なのだが、やはり残念ながら今回も映像は凄いのだが、ストーリー・テリングにはあまり気乗りしない。スランプ中の作家ジェームズ(アレクサンダー・スカルスガルド)は、裕福な資産家の娘である妻エム(クレオパトラ・コールマン)とともに洒落たヴァカンスを楽しみながら、新作のインスピレーションを得ようと島を訪れる。そんなある日、ジェームズは彼の小説の大ファンだという女性ガビ(ミア・ゴス)に話しかけられる。彼女とその夫に誘われ一緒に食事をし、意気投合した彼らは、観光客は行かないようにと警告されていた敷地外へとドライブに出かけるが、それが悪夢の始まりだった。

 開巻早々の悪夢のような独り言に始まり、庭先を蹂躙する様な地元民の暴走や、顔が歪に爛れた土地のお面が出て来る辺りはこれから先起こる陰惨な事象を物語り、かなり期待を持たせたのだが夜道でうっかり人を轢いてしまう辺りであぁ、やっぱりスティーブン・キング案件なのねとかなり興味を削がれた。前作前々作に関してはおそらく多くの観客がお父さんの贔屓の客で、寡作になりつつあるお父さんの作品の合間に息子も観てやるか的な親戚のおじさん的な好奇心もあったように思うが、実験的だった前2作に比べればだいぶ丸くなった印象だ。然しながら殺人をクローンで折り合いを付けようとした中盤以降の語りは明らかにおっかなびっくりで手触りで、主人公ジェームズの悪夢のビジュアルが前衛的なのに対し、極めて保守的に映る。途中で荒木伸二の『ペナルティループ』とほとんど同じ感触だと気付いた時にはあぁこれは高尚に見せかけて中身のない映画だとわかったし、映画作家としてはタイ・ウェストやアリ・アスター、アレックス・ガーランド及びMナイト・シャマランの作劇を参考にしているのも丸わかりで、あぁこの子がもしもデヴィッド・クローネンバーグの子供でなかったらと思わざるを得ない。中盤、作家のスランプを自分と重ねたメタ的な冷笑主義はおそらくブランドン・クローネンバーグの本音だろう。
netfilms

netfilms