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波の間にのSPNminacoのレビュー・感想・評価

波の間に(2021年製作の映画)
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女優を目指すアルゴとアルマは大の親友。アルマが初の大役、アルゴがその代役を得て、夢が叶ったかに見えたが…アルマには秘密があった。
『フォーエバー・フレンズ』とか女の友情ものにはこういう展開が多い気がするけど、でも実は演じること、演技とはなんぞや?って映画なのだった。
役者仲間はモリエールのコスチューム劇、アルマたちは実験的新作戯曲。劇中芝居自体がだんだんシンクロし、何でも共有して名前も似通ったアルマとアルゴの境界が曖昧になっていく。舞台初日までと2人の残された時間が重なり、アルマの役をアルゴが演じ、アルマ自身をアルゴが演じ、役柄と演者とお互いが一体化する。
2人は喧嘩を演じて始まり、時にはアルマのやり場のない怒りや悲しみを代わりに激しく表に出し、時にはアルマの前で嘘を演じるマルゴ。稽古中、代役のアルゴはアルマの演技ポイントを書き留め続ける(演出を共有するため)。演出家が言うには、演じるとは役の感情を理解して出すこと。アルマを通してアルゴはそれを習得していくのだ。
NYへ渡った移民2世の一人芝居を演じる2人とも移民だが、それぞれスクリーンに浮かぶ情景が違う。望郷と喪失を抱え子供に語りかける芝居の主人公と、アルマが語りかける「(即興の)台詞」に導かれたアルゴは、やがてどちらも過酷な現実を越えて対岸へと渡る。そこではいつまでも一緒。もはやアルマはマルゴの中にいるから。
カメラが敢えてアルマでなく、アルゴのリアクションを主として撮っているのが特徴的だった。舞台で1人で演じることと同じように、アルゴ演じるスエイラ・ヤクブのリアクション演技もある意味一人芝居。役を演じる俳優を演じる俳優を見るための。
つまり、全編が何重にもこれぞメソッド演技。いわば俳優と役柄、現実と芝居の間にある波を越えて対岸へ渡る舟となるのが演技だと、熱い演劇論映画だったよ。
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