ユウ

世界の終わりからのユウのレビュー・感想・評価

世界の終わりから(2023年製作の映画)
3.0
紀里谷監督の引退作。引退作!? あんたまだ4作しか作ってないぞい!? とファンは感じる。

さて、この映画はそんな紀里谷監督が自身がやりたいものをやるという作家性を突き詰めた映画。
壮大な架空舞台というものをよく用いてきた同監督だが、今作では戦国時代などを思わせる独特な夢の世界と、(終焉が迫っているがとてもそうは見えない)ありふれた現実世界という両極端な世界を描いている。

制作にあたって、資金繰りがしやすい制作委員会形式を取らず、プロダクションとも連携を取らないというアプローチで制作されたらしい。併せて、主人公を演じた伊藤蒼の夏休み期間中にクランクイン、クランクアップを迎えるという強行的なスケジュールで撮影されている。
その結果、従来作に比べて、かなり荒削りでチープな作風にも見える。

ストーリーは終焉の未来が記された預言書を管理する輪廻者という転生者とそれを匿う政府が、未来改変の希望を託して主人公はなを見出すが、死を許されないが故に世界の終焉を望む無限の者や、はな自身の境遇に苛まれ、思うように未来改変のミッションが進行しないというもどかしさに焦点があった映画。

やはりというかなんというか、矛盾的な要素を多く詰め込んでいる。
特に印象的だったのは、主人公が「みんな自分勝手」と叫びながら、自分勝手に逃げ出すシーン。
主人公のはなは、たまたま未来改変の可能性を持っただけで、望んで得たわけではない。それでも力ある以上は世界の維持に奉仕せねばならず、
世界の存続を願うネット住民からは役立たずとされ、
世界の終焉を望む者からは謀略を企てられ、
支援者であるはずの政府も一枚岩ではなく、
ボディガード達は本当の身分を明かさない。
そりゃあまあ、みんな勝手だと言いたくもなる。だが、やはり力がある以上はそんな態度じゃままならない。
けれどそもそもただの貧乏女学生である。
このもどかしさを見れば、現役の高校生を起用することに固執して夏休み期間中に撮影をやってのけた監督の思惑にも多少の理解が及ぶ。
その他にも、夏木マリ演じる輪廻者の老婆、すなわち世界存続を取り仕切るリーダーが、世界に守る価値がないかもしれないと吐露するシーンにも、このえもいわれぬ矛盾的なもどかしさが表れる。


それにしてもラストのたたみかけにはびっくりした!と思ったけど、最初からタイトルに書いてあったわ。

正直なところ、ショーアップされた作品よりも作家性を重視した作品というものを監督自身が意欲的に制作すること自体には賛成するのだが、本作を以て引退というのは、なんともファン泣かせである。
ユウ

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