このレビューはネタバレを含みます
ジャーナリズム映画。性被害を訴えた人物に対し、警察はありもしない証拠(監視カメラにキスしている君が映っていた、とか。しかしキスしている人物は被害者自身ではない)を持ち出すことで被害者を混乱させ、「君はレイプされていないんだろう」と圧をかけることで訴えを取り下げる。それによって半数が証言を撤回するとのこと。警察側の主張としては、「本当のことを自供させるために」嘘の証拠を使うことは認められている。
警察の姿勢に問題がある。本作のケースでは事情聴取にかける時間は容疑者に20分であるにもかかわらず、被害者には2時間も詰問をしている。データとして容疑者の半数は事情聴取を受けておらず、容疑者の過去は調べられていない。また、事件当時に周囲の人物に話を聞くこともないそうだ。
被害者が事件当時に酔ったりしていると、自らの記憶に信頼が置けなくなるのだが、警察はこの不安を突いて誘導していく。結果訴えた人物は嘘の証言を行ったとして逮捕される。なぜ警察がそのようなことをするのかというと、検挙率が上がり、事件も解決するためだ。
このような構造によって、性暴力サバイバーは警察に信じてもらえないと考え、被害を打ち明けなくなる。
感想
男の警察が事情聴取で「蹴ったりして抵抗はしなかったんだろう?」と聞いていたが、これこれがジェンダーの壁だ。デパントの『キングコング・セオリー』にはこのように書いてある。「私は、男をひとりも殺すことができなかった自分に怒っているのではない。無理やり脚を開かれても絶対に男を傷つけるなと教える一方で、レイプという犯罪から立ち直ることなんて絶対できないと私に吹き込んだ社会に対して怒っている。…銃を持った3人の男を相手に、勇気を出してあの小さなナイフで抵抗しなかったことで、今でも私は自分を責めている」(pp. 62-3)。私はこれを読んだときに非常に驚いた。女は自分の尊厳を無理やり奪われそうになった時、ナイフで抵抗していいんだと気付かされたためだ(暴力を行使してよい、という想像すらしていなかった)。そのとき初めて女であるとはどういうことか、男は殴る蹴るの喧嘩をするのにもかかわらず、女は暴力で抵抗してはならないとずっと教え込まれきたということに自覚的になった。
被害者に男の人もいるということも描かれていた。