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ニモーナのLCのレビュー・感想・評価

ニモーナ(2023年製作の映画)
3.9
面白かった。

冒頭からぐいぐいと引き込んでくる力強さが緩むことなく、あっという間にクレジット画面まで駆け抜ける。

主人公がとても穏やかで、なるべく事を荒立てないように動こうとするので、弾けるように動き回る友が大きな爽快感を与えてくる。
何を信じればいいのか、その複雑さに耐え切れず、わかりやすい悪者に刃を向ける。信じたいものだってあるしね。
ただ、そのことがどれだけ大きな痛みを生み出すのか。その痛みが、大きな影となって頭上に広がる。
その複雑さや痛みが暴走する様が、とても見やすい賑やかな物語として描かれており、楽しい鑑賞時間を過ごせる。

君の正体は?
そう訪ねられても、友には主人公を納得させられる答えがない。
自分がどうしてこういう存在なのか理解して生まれてくることは、考えてみれば、ないよなあと思ったりする。
主人公だって、彼の恋人だって、どうして同性であるお互いに惹かれたの?と問われても、惹かれたから、それが全てだろう。
2人にも様々な違い(身分とか肌の色とか)があるわけで、それらを全て飛び越えてお互いを認め合った理由は、全ての人にとって納得できるものじゃないかもしれない。そんな答えは存在しないかもしれない。
2人には共通点もあって、お互いに人の姿以外になる能力はないし、お互いに騎士として切磋琢磨したし、騎士として同じ価値観を持っていた。
そういうひとつひとつの要素が、「では目の前の友はどうだろう」と意識を向けやすくしてくれている。
主人公と友には、やっぱり様々な違いがあって、同様に共通点もあった。

排除したいと思われていることが怖い。でも、時々それを願う自分もいる。
友のように孤独と絶望に負けそうになりながらも、それらを跳ね返して「生きている実感」を大切に過ごそうとする姿勢には親近感を抱ける。時々負けそうになって、どうしようもなく自分や他者を傷付けてしまうこともある。
理解して信じてくれる人が、たった1人いるだけで、異なる道を選べたりする。
ただ、彼女のように豪快に跳ね返す力は、なかなか持てなかったりするんだけれどね。
自分の存在を無視しないで、その目に焼き付けて。見ることができたなら、考えて。
そう伝えることが困難であればある程、もっと暴れたくなる。そういう心理は、彼女特有のものでもない。目の当たりにする側は、びっくりしちゃって考える余裕を持てなかったりするんだけれど。

僕の何を見ていたの?
そう問いかける主人公も、友の何を見ていたのかを自分に問い直す瞬間が来る。
複雑な世界を恐れずに見ていこう。面倒くさがらずに、考え続けよう。改めてそう思える。時間はかかるだろうし、一生をかけても明確な答えは見つけられないかもしれないけれどね。
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