おにおに

沈黙の艦隊のおにおにのレビュー・感想・評価

沈黙の艦隊(2023年製作の映画)
3.7
MOVIX川口で鑑賞

「沈黙の艦隊」については説明不要ですね!
私はちょうど若手会社員時代くらいに全巻読んだのですがこれがめっちゃおもしろいんだ。
読む人は選ぶかも知れませんが、軍事・国際政治・外交安保あたりの分野に興味があるひとなら夢中になって読んでしまうはず!

私はリアタイでは読んでいませんが、当時はちょっとした社会現象くらいには読まれてたと思います。
ドラゴンクエストが売れてます!ってニュースになったでしょ。あんな感じで、「沈黙の艦隊がブームです!」みたいになっただよ。

内容はネタバレになるので伏せますが、ざっくりいうと、よくある自衛隊モノです。
優秀だけど憲法の枠組があるので、専守防衛で武力行使できません!
安全保障はアメリカに頼っているので、アメリカのいいなりです。お金は出すけど血は流しません。自分の国を自分で守れません!
そこにさらに核兵器がからんできて、国連は戦勝国の核保有国の寄せ集まりなので、いざというときにお互いにらみ合って機能しません。

どうする日本?

みたいな。

wikipediaによれば1988~1996まで連載ってあるので、ソ連が崩壊して、湾岸戦争があって~という頃。
総理大臣が「竹上登志雄」っていうから、これはモデルは竹下登なんでしょう。ちょうど1988年は竹下内閣の頃です。

ニューヨークで同時多発テロがあって、イラクが大量破壊兵器を持ってるってんでイラク戦争になったのは「沈黙の艦隊」のあとに起きた出来事だ。
小泉首相が、アメリカに人的貢献をしろと迫られて、「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域です!」っていって自衛隊派遣したでしょ。
そして今はロシアがウクライナに侵攻してるけど国連は何にも機能しておらず。
北朝鮮は核実験とミサイル実験を繰り返して、それこそ独立国家「やまと」ばりにね、核兵器開発して持ってるぞ、アメリカ大陸に届くICBMもあるぞオラァ!
ってやってる世界がいまなわけでしょ。

なので、「沈黙の艦隊」って、予言的な作品って意味でけっこうすごいとおもいます。

小松左京ってSF作家をご存じでしょうか。
個人的には「復活の日」っていう映画と「見知らぬ明日」っていう小説がおすすめなんで是非ごらんください。
小松左京も、国際政治のパワーゲームの中で主体的な判断や行動ができない日本、みたいな話をいろいろ残されています。
サイエンスではないので「SF」ではないけど、国際政治・外交安保のフィクションという意味で。
小松さんはもっと前のひとなので、その「予言的」って意味ではもっとすごいんですが、そういうすごさに近いものがあります。

前置きが長くなってしまったけど、なにが言いたいかというと「沈黙の艦隊」っていうのは、めっちゃおもしろい漫画で名作なんです!!


で、映画の話に戻るのですが、こういう「原作をよく知ってるやつの映画化」って高評価になりにくいと思います。
ストーリーを知っている前提でみるでしょ。
大河ドラマと同じで、本能寺で信長が死ぬのもわかってるし、関ケ原では家康が勝つって「知っている」んで、「どういう描き方をするのか」という見方にどうしてもなってしまう。評論家の目線だ。こういうお客を前にして高得点を出すのは難しいとおもいますよ・・

その意味では、まずキャスティングの不満っていうのがある。
これは予告編みた瞬間に思ったのですが、深町は玉木宏のイメージじゃないでしょ。もっとごついイメージが欲しい・・鈴木亮平とかさあ。
海江田も大沢たかおがダメなわけではないが、やっぱりちょっと違うんですよね・・

あとすごい違和感なのが深町が海江田になんで敬語??階級が上だから?海江田が上官みたいな描かれ方してたけど勝手に原作の設定変えるのはやめて欲しい。

映画にしかないオリジナルキャラもそう。具体的には入江兄弟とその周辺シーンなんですが・・あれ要ります??
海江田と深町のキャラとか関係性をよりクッキリと印象づけようという意図なのかも知れませんが正直いらない。むしろ余計な印象を作り出してて、海江田と深町の格を下げてる。
何狙いかしらんけどヘタにやるより原作リスペクトして忠実にやったほうがいい。

あとはまぁ、2時間で「沈黙の艦隊」全32巻分を詰め込むのは到底無理なので、どこかの途中で終わるんですけど。
そこをうまい感じに終われるのか、どれだけ詰め込めるのか。「詰め込み過ぎ」だとつまんないでしょ映画として。
「えっ、ここで終わりですか?」ってなるだろうなぁと思ってみてたら、やっぱりなった。

「沈黙の艦隊」といえば、国連とかホワイトハウスとか日本政府とか、そこらへんの首脳のひとらが繰り広げる駆け引きとかパワーゲームをいかに会話劇としておもしろくみせられるか!っていうところが見せ所だし最も重要とおもわるのですが、そこがいまいち。

特にホワイトハウス。アメリカのベネット大統領、あれではしょぼいでしょ・・
そして第七艦隊も。「我々はアメリカだ」っていうね。この話のラスボスってアメリカなわけじゃん。そこはもっと最強で最凶で圧倒的であってほしいわけですが、ここもちょっと迫力不足で不満。

沈黙の艦隊のいちばんおもしろい部分が致命的にいまいちに感じたので★は低いです・・

潜水艦同士のバトルはまぁおもしろかったかな。漫画の絵が、映画だと実写ですごい迫力なわけじゃん。そこは映画ならでは。
アスロック対潜ミサイルがぶわああって発射されて次々に海面に着水!とかね。
漫画は旗艦は「ロナルド・レーガン」ではなかったような気はしますが、第七艦隊の威容も「おおおおー」って感じだったし。
なので軍事オタの目線からいうとエキサイティングではあったかも。

というわけで、「まぁまぁおもしろかった」2時間ではあったものの、やっぱり不満の多い映画化かな?と思います。
原作がおもしろいと、たいてい映画化は負けますよね。
今回はなかなか頑張ってはいるとはおもう(もっとひどい名作漫画原作の映画化は山ほどある)のですが、やっぱり★は低いです・・

途中で終わった感があるので、続編映画化もあるかも知れません。
まぁ続編映画化あれば(見なければ気が済まないから)見にいくとはおもいますが・・あまり期待はできなそうです。

★は3.7くらいにしときます。


~追記
あ、Adoはあんまり聴いたことなかったのですが歌唱力高いですね!エンドロールの楽曲は見事でした(この映画にあってるかどうかとかは置いといて)
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