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パスト ライブス/再会のnetfilmsのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.2
 ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンは幼馴染で、お互いに恋心を抱いていたが、ノラの映画監督と作家の両親が韓国を離れることになり、はなればなれになってしまう。人間誰しもにある幼い頃の初恋の郷愁と呼べばいいだろうか?クラスの優等生同士の2人は、どちらが成績が上か下かで揉めてしまう。どうやら少女の方は負けん気が強いらしく、ヘソンに負けたのが相当に悔しいらしい。母親は残り少ない韓国での思い出作りに注力するものの、少女は少年にサヨナラが言い出せずにいた。それから12年後、24歳になったふたりは、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいた。思春期の人間にとって初恋の記憶はナイーブでいつ壊れるかもしれない危険を孕んでいる。あまりにもナイーブで壊れやすい恋だが、赤い糸はすんでのところで切れることはない。Facebookの「知り合いかも?」のリストのトップにある日突然、昔の恋人や好きだった人の名前と近影が飛び込んで来たらそういうことだと思った方が良いと聞く。相手の名前を入れたら、元カレの情報にすぐに辿り着く現在の世界線が果たして良いことなのか聞かれたら答えは出ない。あいつ今なにしてるかな?には思春期の諦念やリビドーがうっかり発露する。

 今作の主人公であるヘソンもまた、幼少期の初恋に恋焦がれる。然しながらこの男が心底迂闊なのはGoogleで調べるだけではなく、実際にノラのことを探してしまうことだ。ある日、オンラインで再会を果たし、それからはSkypeで互いの日常について話し始めるのだから。Skypeの画面の中の彼女は正しくあの頃の面影を残しながら、自分の知らないミステリアスなニューヨークの雰囲気を醸す。だがヘソンも好きなら好きと伝えれば良いものを、単なる日常に起きた出来事の羅列に終始するだけで、伝えたい言葉が出て来ない。おそらく煮え切らないヘソンの態度に業を煮やしたはずのノラはやがてSNSでの通信手段を絶つ。その12年後、36歳になったノラ(グレタ・リー)は作家のアーサー(ジョン・マガロ)と結婚している。だがヘソン(ユ・テオ)はそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークにやって来る。まぁ何と言うかアジア版のリチャード・リンクレイターの『ビフォア』シリーズの趣である。基本的には女性よりも男性の方がロマンチストで、女性はリアリストだと言うが今作を観ればその辺りがよくわかる。ヘソンは少年の頃の記憶に恋焦がれ、酔いしれるのだが、彼女は挫折をしながらも現実の今を生きている。

 そろそろ結婚すればと問われれば、彼女には自分より良い人がいるからとカッコつける。その辺りの男の痩せ我慢がストンと落ちるだけに余計に辛い。明らかにユダヤ系の記名がなされたアーサーもまた、2人にしか知らない世界への嫉妬を抱えながら、ノラを肯定しようと3人の場に彼女を送り出す。率直に言ってヘソンもアーサーもめちゃくちゃ格好悪い。然しながら大人の格好をした中身は少年2人に囲まれながら、ノラだけは冷静なのが極めて印象に残る。彼女はヘソンに対してもアーサーに対しても、極めて率直にモノを言う。男2人に言い寄られた自分自身に酔うのではなく、エモーショナルな部分は残したままで男たちに寄り添わんとする。その姿が逆にいじましく感じられるような稀有な映画で、凡百の恋愛映画にはないような低体温で、見事な情感を醸し出す。
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