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パスト ライブス/再会のipiのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.4
切ないラブストーリー以上に、移民としての物語に深く感動した。ナヨンにとってのヘソンは、12歳まで暮らしていた母国=韓国のメタファーとしてどうしても捉えてしまう。韓国名で彼女を呼ぶのはもはや彼だけで、アメリカにおける移民の象徴としての自由の女神も出てくるのでなおさら。地元民であるアーサーが1回も行ったことないよとあっさり言えてしまうのも残酷だが、ニューヨークに逃れたユダヤ系の歴史を考えるとそんな単純な話でもないので、アメリカという国は本当に複雑。ただ、そんな移民の国アメリカで本作が高く評価されるのも納得できる。

国際結婚なので正確には移民とも違うが、両親が住む母国を離れ日本で暮らしている私のパートナーの心境に思いを馳せ、切ない気持ちで胸がいっぱいになった。そうなると私が深く共感するのはもちろん夫アーサーで、自分が完璧には理解できない言語で妻が会話してる時のあの寄る辺なさはよくわかる。ちなみに私の妻は、20代後半で日本へ来たのに寝言も日本語で喋る凄い人だが、母国に帰ると以前と同じく母語の夢を見るそう。(無意識に脳が切り替わるらしい)

ニューヨークとソウルの撮影も素晴らしく、韓国描写のリアリティも流石CJがしっかり絡んでいるだけのことはある。ただ逆に中国の場面はあまりにも思い入れがなさすぎる気もするが。

一つ苦言を呈するなら、やはり韓国語の勢いのなさだろうか。是枝監督の「ブローカー」の時も気になったが、韓国語の魅力は力強さだと私は思っているので、リアルな韓国語と比べるとあまりに整いすぎていると感じた。それに私にはそこまではわからなかったが、(移民というエクスキューズ、あえて拙くする意図があったとしても)韓国語の発音はネイティブからすると気になるらしく、ところどころネイティブだったら違和感を感じる言葉の選び方もあるらしい。韓国では、韓国語演技の微妙さ、韓国人があまり好まないもどかしさがノイズになってしまい、思ったより否定的な意見も多いようだ。(家父長制を引きずるヘソンを韓国的すぎると批判していたので、アメリカ人として生きるセリーヌ・ソンの作品はむしろその受け取られ方が正解な気もするが)本作は韓国語がよくわからなくて、もどかしい恋愛が好きな日本の観客の方が受け入れやすいだろう。

それにしても昨今は「ミナリ」「EEAAO」「BEEF」「エレメンタル」など、アジア系移民の物語が次々と生まれ、高い評価を受けている。とても面白い傾向だと思うので、次はそろそろ日系の物語の番ではないか。第二次大戦時の強制収容、日系人の442連隊など暗い歴史もあるので簡単には描けないこともあると思うが、ぜひ見てみたい。
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