Ren

パスト ライブス/再会のRenのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.5
殆ど完璧な恋愛映画。ここ数年のオスカーノミネート作品の中では断トツで大衆の心を掴む普遍性があり、年に1〜2回劇場に行くかどうかのライト層にも自信を持っておすすめしたい。

韓国で幼少期を共に過ごし惹かれあった幼馴染の12年後と24年後の再会を描く。00年代の『エターナル・サンシャイン』『(500)日のサマー』、10年代の『花束みたいな恋をした』を経て観る今作は前述の作品群に並べてずっと語っていきたい名作だった。
「エモい」という言葉に内包されてきた運命や縁の儚さ・尊さ・切なさを一つひとつ丁寧に分解し、その要素一つひとつを細やかに紡げばここまで観ていられるんだと思った。主要人物はたったの3人、乱暴に言えば会えない/会いたい/会えた/会わないの機微のみがドラマになっている。でもそれだけで人は泣くのだ。会いたい人がいる人、もう会えない/会わないと決めた人がいる人は観てほしい。つまり全員に観てほしい。

冒頭だけが三人称視点になっているのも上手い。泥沼の象徴か、得意な因果関係を勘繰ってしまう「男女の3人組」をまず観客と同じ目線で照射することで、そこにある絆の話に入り込める。加えて今作が「男1:女1の恋愛関係についての映画に終始しない」ことの説明にもなっている。
袖振り合うも多生の縁という言葉もあるが、今世の関係は数多の前世と来世に挟まれたうちの一つでしかない。出会いと境遇は自分の選択によって掴んだものであるけどその論拠にはやはり運命という不可抗力があって....というロマンチックながらも残酷な巡り合わせの物語。とても宗教(仏教)的な話だけど普遍の恋愛映画として受け入れられているのは、多くの人が恋や愛は「そうなる運命」の元に成り立っていると心のどこかで信じているからだろう。人間ってロマンチストなんだなと思う。

映像もとても良く、ミニマリズムで情報は少ないようだがその取捨選択が心地良い。右と左に分岐するY字路。大人になったノラとヘソンは手すりを隔てて階段を降りる。電車では2人の間にポールがあり、手元をアップすると結婚指輪が光る。反時計回りに回るメリーゴーランド。「2人が間違いなく惹かれ合っていた過去」と「やっと会えても埋められない隔たり」をシンプルにスマートに、サブリミナルのように溶け込ませている。そしてそれを引き立たせるのがスマホのエモフィルターのようなフィルム撮影。ざらっとした粒子感の残るNYの街並みは絶品。

分かっていても涙が溢れるラスト。時間の数直線は左から右に流れる。「過去は確かに存在したが、それでも時間は未来へ流れる」という現実への向き合い方に苦しくなる。自分が人生で一番好きな映画『(500)日のサマー』のようでいて、少し『ラ・ラ・ランド』みもある。そして結構モロに『ローマの休日』。素晴らしい幕引き。

映画の完成度を俯瞰で語るよりは、キャラクターにずぶずぶに感情移入して、ノラはなんなんだ!ヘソンしっかりしろ!アーサー優しい!とああだこうだとやきもきするのが今作を一番楽しむ方法だと思うし、きっと作り手もそういう映画にしたいのだと思った。なんも共感できないという感想ももちろんあり。
Ren

Ren