垂直落下式サミング

パスト ライブス/再会の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.5
ソウルで同じ小学校に通う男と子と女の子。ふたりは12歳。互いに淡い恋心を抱いていたが、女の子の家族が海外移住することになり、離ればなれになってしまう。
そして12年後…、フェイスブックを介して再会を果たすが遠距離恋愛はうまく行かず、関係は自然消滅。さらに24年後…、大人になったふたりはついに再開の約束をする。
ソウルに残った男の子のほうは友達とか何人も出てくるんだけど、トロントに移住した女の子のほうは、ほとんど友達が出てこないのが気になった。
男の子のツレは、ずっと付き合いがある人たちっぽい。焼き肉食いながら酒盛りをし、二年付き合った彼女なのに別れちゃったんだとか、女なんて星の数ほどいるぜとありきたりすぎてもはや逆に新鮮な慰めセリフで騒がしくしており、とてもアジア的で親しみがある。そっかぁ、韓国に生まれたら兵役やらなきゃなんないのか…。だから、24才学生ですなのね。嫌すぎる。
対して女の子のほうは、親しい人が夫以外にあまり出てこない。二十代の頃は、仕事とアパートと図書館。二回も移住して、やっぱそれ相応の苦労があったんだと思う。だから、会えない相手に恋して若さをすり減らす暇はなかったし、今もまだまだ夢を追って戦ってる最中なんでしょう。
三十代の彼女も素敵でした。大都会に染まったニューヨーカーでありながら、存外に韓国的であることにこだわっていて、文化的なルーツを大事にしているっぽいのが、典型的なアメリカのアジア系移民って感じでリアルだった。子供の頃の恋心みたいなのが、今は遠い故郷の元風景に重なって、よりいっそう特別な思い出になっちゃってもいるんだろうな。
お袋たちも、仲いいからってお節介しすぎるのもね。得てして親は子に呪いをかける。さくら舞い散る中に忘れた記憶と君の声が戻ってくる二人約束したあの頃のままでだなんて、そんな都合のいいことないですからね。ヒュルリーラ、ヒュルリーラ。綺麗な言葉の裏には、もっとドロッとした情念があるもんです。
恋愛の映画は、どうしても男目線に寄り添いすぎちゃうな。失恋ふて腐れ期があってもいいよ。でも時間は有限で平等。運命の人と赤い糸で結ばれることができなかった世界線で、主人公たちはこの後どうして生きていけばいいか?有益な答えをくれる作品だった。
恋愛映画だけれど、夢見がちなイタいおじさんたちにこそオススメ。僕らはいつか秒速5センチメートルから、卒業しなければならない…。新海作品は大好きなんだけれど、これにいつまでも耽溺していてはいけないとは思う。許されるのはまだまだ子供の二十歳くらいまで。少年少女の頃の淡い恋を、三十路過ぎても引きずる。その不毛と危険性を、キラキラOne More Time, One More Chanceで美化してしまうから、秒速は特に教育上よくないアニメだと思ってる。
人生初期で付与されるのは、初恋という呪い。これを心の楔ではなく、美しい思いでとして勲章に。なんとかかんとか、ディスエンチャントしていきましょう。これを解呪ととるか、身勝手ととるかで、本作の評価も変わってきそう。