義民伝兵衛と蝉時雨

書かれた顔 4Kレストア版の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

4.5
朧気になってきた日本伝統文化の赤く染まった黄昏時の哀愁。
人生の黄昏時に差し掛かった老表現者達の暮れなずむ魂。
ダニエル・シュミット監督の退廃的で耽美な天才的美的感覚を通して再確認するこの国の本来の美しさ。
あまりの美しさ故に涙が出るという、えも言えぬ映像体験を味わう。
この国が誇る和の情趣の美しさをここまで非の打ち所がなく表現することの出来る映像作家は現代にはもういないかもしれない。皮肉なことにも、時の流れにさらわれていく万物は、その存在に身近であれば身近であるほど灯台下暗しなのが世の常。

単なる和の美しさだけで終わらせないのがやはりシュミット監督。和の情趣とシュミット監督の独創的世界観が、恍惚となるようなシンクロを魅せる。
日本の風景がシュミット監督の代名詞でもある耽美な退廃的世界観へと染まっていく。
同じく黄昏時を迎えている西洋の伝統的文化オペラなどともオーバーラップを重ね、体感したことのないような耽美な退廃的世界観へと突入していく。
しかし、最後にはやはり、混じり気のない純粋な和の美しさへと回帰し、この国の美しさを一途に直感させてくれる。
シュミット監督の天賦の美的感性は勿論、日本という国を芯から理解していることにも感心させられる。

板東妻三郎から坂東玉三郎への伝統的な和の情趣の贅沢な梯子に、日本文化への愛がより深まった。

坂東玉三郎は勿論素晴らしいが、大野一雄とシュミット節のシンクロ率は最早崇高。


2024年3月29日、Morc阿佐ヶ谷にて再鑑賞。


風流
技芸
鍛錬
伝統

黄昏

無常

耽美

坂東玉三郎
大野一雄
杉村春子
武原はん
蔦清小松朝じ

ダニエル・シュミットとオペラ

レナート・ベルタ

トワイライト・ゲイシャ・ストーリー
青山真治

振り返ると朧げに輝く
美しき暮色

彼ら彼女らの去った今の日本国や映画界

伝統や文化の
黄昏時の哀愁や郷愁

本作を鑑賞、その後、新国立劇場で「トリスタンとイゾルデ」観劇、
という耽美至極なパーフェクトデイを体験した。