305備忘録

ビヨンド・ユートピア 脱北の305備忘録のレビュー・感想・評価

5.0
自分が生まれ育った日本海沿岸の地方都市において、北朝鮮はすぐそばにある異世界だった。自宅からバスで少し乗れば、とある拉致現場となった海岸があった。そこから見える海は何も変わらない、普通の海なのに、そこで起きた物事はなにもかも幼心に想像の範囲を超えていて、常軌を逸していた。

もしほんの少し生まれついた場所が「ずれて」いたら。どんな人生を送っていたんだろう。

そんな幼い頃の自分の問いに、答えを突きつけられた気持ちになった。

映し出される人たちは、とにかく自分たちと何も変わらなかった。まるで虫か何かのように暗闇に身を潜めて息を殺して恐怖に耐えなければいけない脱北者たち。でも、少しずつ国境を離れてひとまずの隠れ家に身を落ち着けるたびに、少しずつ本来の人間らしい表情が見えてるようになっていく。すぐ近所に住んでいそうな親しみやすさを感じて、余計に胸を締め付けられる。

本当に、たまたまそこに生まれついただけだ。それなのに、まるで虫ケラのように逃げ惑い、虐げられていい必然性があっていいはずがない。

全てが実際の映像で構成されたこの映画では、北朝鮮に生まれた人々の生きた表情を克明に映し出していた。

もっと彼らのことを知りたい。自然とそう思えた作品だった。