まぬままおま

男と女と魚料理のまぬままおまのレビュー・感想・評価

男と女と魚料理(2022年製作の映画)
4.0
ブリリア短編。

良作です。

二人の恋愛物語は、男がHIV感染者であることと女のHIVに対する偏見や抵抗感によって縺れてしまい…。

80年代に比べてHIVに対する偏見や差別がなくなったといっても、現在を生きる私たちの心に偏見や差別がなくなったわけではない。そして意識の有無を問わず、アクションとリアクションで私たちは容易に偏見や差別を顕わにしてしまう。だから彼女のアクションとリアクションは、HIVに対する正しい理解があれば変わったわけでもなく、むしろ私たちが私たちの想像の域を超えた「他者」ーむしろ他者とはそういう存在だーに出会った時の、普遍的な有り様とも言えるのだ。

不気味な他者に出会ってしまったら、容易に理解はできない。彼の隣にいられるわけがない。むしろ差別や偏見を向けてしまう。それを「視線の誤配」と言えるかもしれない。この「誤配」は本作にとって重要なモチーフだ。彼らのはじまりは郵便物の「誤配」であって、ドラマは魚料理にまつわる「誤配」だ。彼は彼女の気を配って魚料理を提案し、彼女は彼の気を配って嫌いな魚料理に同意するように。このように〈私〉と「他者」が出会い、コミュニケーションするとき、肯定的か否定的かを別として常に誤配を孕んでいるのだ。

それなら私たちは「他者」を忌避するべきか。本作では、否を提示する。彼女は引っ越しをして彼のもとを去るわけではない。終盤、二人の間は、扉で隔てられている。だが、彼女が彼の部屋の扉で待っているとき、確かに〈私〉が「他者」に届けられる可能性があるのだ。この未来への〈開け〉も描かれていることに私は好感をもってしまうのだ。