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夜明けのすべてのmのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
3.4
同監督の『ケイコ 目を澄ませて』は孤独な誇り高さが好きだったのだけど、今作のぼんやりした温かさの続く人肌感はちょっと苦手だったかもしれない。フィルムの質感や音の使い方は良かったと思う。

雰囲気のいい映画ではあるけど、人の内面に踏み込まなさすぎのように見える。
山添くんは海外転勤があるような会社から「脱落」した立場として葛藤があったに違いないけれど、その心情をもっと知りたかった。藤沢さんも、自分の身体が制御できないことの苦しみと受容についてどのように感情が推移していったのか、語りを聞いてみたかった。

それに(これが一番大きな引っかかりポイントなのだが)、ピルを試してみたいと言う主人公に対する「お母さんに血栓症の既往があるからピル処方は難しい」という主治医の言葉がちょっと取りつく島なさすぎに聞こえて、血栓症リスクが低い薬や方法をもっと探して試していくこともできるのではないかなあとモヤモヤしてしまった。婦人科医療は良い医師に出会えるかどうかの運ゲーになっていると思う。
企業に互助会のような機能を期待するのは求めすぎのような気がするし、人がお互いに助け合うことは必要だけど、それだけですべてを解決することはできないと思う。

それでも、いわゆる社会の表通りにいる人には、そもそも傷ついていない人や、傷ついていても傷を表に出さない人が多すぎるよなぁという気づきはあった。弱みを見せればつけ込まれて負けてしまうからだろうけど、弱みを隠しているから連帯することができない。逆に、弱点を見せ合えれば補い合うこともできる。そういう希望はあるのかもしれない。
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