囚人13号

夜明けのすべての囚人13号のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
別に何も書く必要ないとも思うが一応、俺は三宅映画を傑作というより単に「好き」と思ってるだけだと実感した。

原作読了してから観たので結論から言うと先に読んでおいた方が良くて、心理描写(主観ナレーション)に溢れた原作本を常に映画=事象(客体)として外側から捉えてきた三宅唱がどう処理しているのかよく分かる。

回想を切除した構造を印象付けるように上白石萌音のモノローグから入り、松村北斗の(もちろん光石研も同じ)過去も他の登場人物から明かされていくため恋人も出現し、故に二人の間には恋愛感情が生じないため安易なアイドル映画に陥らない。

ただこのままだと山添君の人物設計というか、彼の無遠慮な言動が腑に落ちない人がいるかと。「過去」を見せない=快活だったらしい診断前との対比ができないのは構造論的な欠陥に収まってはいるけれども。

しかし何より数箇所挿入される無人のショットが素晴らしい。『ケイコ』にも見られたシンプルな対比であるが朝と夜ではなく、ただそれの導入によって緩やかな時間・空間の推移を達成しつつ二人の俯瞰へ繋がれ、上白石萌音の前日譚で幕を開けた物語は松村北斗の後日譚で終わる。あと終盤の部屋を捉えた1カットのみ明らかに小津を意識していたことは触れるだけにしておきたい。

自転車が購入ではなく讓渡へ、草むしりが洗車へ置き換えられていることの映画的な意義は他の誰かが言語化できる語彙を持っていることを祈る。
妥協として残るのは山添君小綺麗すぎ問題。
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